睡眠時無呼吸症候群
エスワープ眠気尺度(ESS)問診票
睡眠時無呼吸症候群のための入院検査を受けられる方へ ~ポリソムノグラフィーについて~
睡眠時無呼吸症候群について
【睡眠時無呼吸症候群】
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome; SAS)は,睡眠中に何度も呼吸が止まったり,浅くなったりして体の低酸素状態が発生する病気です.この病気の方は,
1)周囲の方からいびきを指摘される,
2)夜間の睡眠中によく目が覚める(息苦しくなって目覚めることもあります),
3)起床時の頭痛や体のだるい感じ,
4)日中の眠気などを経験します.
【睡眠時無呼吸症候群の病態】
睡眠時無呼吸症候群には,口や鼻から肺の入り口である声帯に至る空気の通り道が細くなるために発生する閉塞型,呼吸を調整する脳の働きが低下するために発生する中枢型,これら両方が関係する混合型に分けられますが,閉塞型が大部分を占めます.
閉塞型の睡眠時無呼吸症候群の原因のひとつは肥満です.睡眠中には,のどの緊張が緩むため,正常の人でも空気の通り道が細くなりますが,呼吸が止まるまでには至りません.しかし,肥満の人では,のどへの脂肪沈着が増加するために空気の通りが悪くなるのです.
図A) 正常の状態では,呼吸をすると空気は鼻から気管へスムーズに流れる.
図B)睡眠時無呼吸症候群では,のどの緊張がゆるみ,舌の付け根(舌根)が下に落ち込んで,空気の通りがさまたげられ,無呼吸(呼吸が止まる)やいびき(断続的に空気が通る状態)となる.
図C)後に示す経鼻的気道持続陽圧療法を行うと,圧力で舌の付け根の落ち込みが防ぐことが出来るため,呼吸が止まらなくなります.
肥満のない方でも,アゴの骨格(下顎骨が小さいなど)やのどの奥の形(扁桃腺や口蓋垂が大きいなど)によっては空気の通りが悪くなり易く,無呼吸の原因となります.また,飲酒や睡眠剤の内服は,のどの緊張を緩める作用があり,無呼吸を増加させる可能性があります.
【睡眠時無呼吸症候群の合併症と予後】
この病気のこわい所は,睡眠中の低酸素や日中の眠気などによるストレスのために,高血圧,脳卒中,心筋梗塞などの虚血性肺疾患の発生を増加させることです.糖尿病,高脂血症もしばしば合併します.これらの合併症により,突然死される患者さんもおられます.我が国の睡眠呼吸障害研究会の検討でも(2000年)では,後に示す無呼吸低呼吸指数が20以上の患者さんでは,20未満の患者さんに比較して,明らかに寿命が短いことが報告されています.さらに,昼間の眠気は様々な事故につながります.ですから,この病気を正確に診断し,必要に応じて治療を行うことは重要です.
【睡眠時無呼吸症候群の診断】
1)日中の眠気の評価
患者さんの日中の眠気を評価するために,ESS(エプワース眠気尺度)問診票が知られています.24点満点で評価されますが,11点以上で日中の眠気が強いと判断します.『エプワース睡眠尺度(ESS)問診票』も参照下さい).
2)睡眠障害の検査
睡眠時無呼吸症候群の診断には,簡易検査(アプノモニター)と脳波を含めた精密検査(ポリソムノグラフィー;PSG)の2種類があります.簡易検査は外来でも出来ますが,精密検査には入院が必要です(『睡眠時無呼吸症候群のための入院検査を受けられる方へ』も参照下さい).睡眠の精密検査で,呼吸が止まったり,浅くなったりする回数(無呼吸低呼吸指数;AHI)が1時間に5回以上に増加すると睡眠時無呼吸症候群と診断されます.一般的には,この回数が20回以上に増えた場合に,鼻マスクによる持続陽圧呼吸療法の適応になると考えられています.この基準は,20回以上の患者さんの寿命が,20回未満の患者さんよりも短いことなどから決められており,睡眠呼吸障害研究会によるガイドラインにも記載されています.
3)口腔内のチェック 病態の部分でも記載しましたが,耳鼻科的診察で,のどの奥や顎の形に異常がないか確認することも必要かもしれません.頭部CTやセファログラムという頭部レントゲン検査を行うことがあります.
4)合併症検査 必要に応じて,睡眠時無呼吸症候群に合併するとされる,高血圧,高脂血症,糖尿病などの検査を行う必要があります.
【睡眠時無呼吸症候群の治療】
1)経鼻的気道持続陽圧療法(CPAP療法)
最も重要な治療法は,経鼻的気道持続陽圧療法です.これは鼻にマスクをつけ,特殊な機械で圧力をかけて空気を送り込む治療法です.この圧力によって肺への空気の流れがよくなり,呼吸が止まることがなくなります.
経鼻的気道持続陽圧療法を始める際の手順をお示しします.まず,体の状態に応じて肺に空気を送り込む圧力を調整する機械をつけながら,一晩眠っていただき,この際のデータをもとに適切な圧力を設定します.次に,このようにして決定した圧力を機械でかけた状態で眠っていただき,ポリソムノグラフィー検査により呼吸が止まっていないこと(無呼吸低呼吸指数が低下していること)を確認します.また,体の状態にあわせて自動的に圧を調節してくれる機械を用いることもあります(オートCPAPと呼びます).鼻のマスクではうまく体に合わない場合(鼻閉など)には,口と鼻を一緒に覆うマスクが必要かもしれません.
この経鼻的気道持続陽圧療法の導入時には短期間入院していただくようにしています.最短で1泊2日で済む場合もあります.詳細は主治医の先生とご相談下さい.また,経鼻的気道持続陽圧療法に使用される機械は非常に小型化されており,カバンに入れて持ち運びすることも可能ですので,行動範囲が制限されることもありません.ただし,体調の確認,機械の調整の必要性のチェックの意味で,月に1回受診していただく必要があります.
2)その他の治療法
明らかな耳鼻科的な異常がある患者さんについては,当院では出来ませんが,耳鼻科医師や歯科医師とご相談いただき,手術や口腔内装具による治療が可能かもしれません.
その他の治療としては,生活改善が考えられます.側臥位では空気の通り道が細くなりにくいため,軽症の患者さんでは効果があるかもしれません.しかし,重症の患者さんでは効果はないと思っていただいた方がいいと思います.アルコールや睡眠薬はのどの奥の緊張を低下させることにより,無呼吸を増加させます.出来るだけ控えていただいた方がいいと考えられます.肥満の患者さんにおいては減量も重要です.減量によって無呼吸が減少する可能性もありますし,睡眠時無呼吸症候群にしばしば合併する,高血圧,脳卒中,心筋梗塞などを防止する意味もあります.
エスワープ眠気尺度(ESS)問診票
この問診票はあなたの日中の眠気を評価するものです.
あなたの最近の生活のなかで,次のような状況になると,眠ってしまうかどうかを下の数字でお答え下さい.質問のような状況になったことがなくても,その状況になればどうなるかを想像してお答え下さい.
全項目の合計点を算出し、下記の表を参考に程度を評価します。
(Johns MW: A new method for measuring daytime sleepiness; The Epworth sleepiness scale. Sleep 14: 540-545, 1991より引用改変)
睡眠時無呼吸症候群のための入院検査を受けられる方へ ~ポリソムノグラフィーについて~
この検査は,正確には終夜睡眠ポリグラフ検査(ポリソムノグラフィー;PSG)と言われるもので,睡眠中のあなたの脳波,血液中の酸素の量,心電図,気管内の空気の流れ,眼やあごの筋肉の動き,胸部や腹部の動きなどを観察します.そのため,頭の皮膚,あご,胸部,指などに種々のテープや電極をつけさせていただきます.たくさんの電線が体につくことになりますので,動きにくくなりますが,決して痛みを伴う検査ではありませんので御安心下さい.
午後7時頃から臨床検査技師が皆様のお部屋に睡眠検査の準備にお伺い致しますので,洗面をお済ませ下さい.トイレ歩行は出来ませんのでお部屋にポータブルトイレを設置させていただきます.睡眠薬はいびきを生じさせる原因のひとつとなりますが,眠って頂かなければ検査は出来ません.ですから,睡眠薬の内服の仕方については医師の指示にしたがって下さい.また,ベッド上での電化製品の使用は脳波の記録の妨げになりますので,電気アンカ,電気毛布などは御使用になれません.電動ベッドのコンセントもあらかじめ抜かせていただきます.翌朝,6時頃,お目覚めになられましたら,ナースコールでお知らせ下さい.お体の配線をはずさせて頂きます.睡眠検査の機械には睡眠中の記録が保存されています.電源を消されますと記録が抹消されてしまいますので,臨床検査技師が機械の回収にお伺いするまで決して電源を消したり,コンセントを抜いたりなさらないで下さい.その他,不明な点がございましたら,看護師,主治医にお尋ね下さい.
結果につきましては,解析に時間を要しますので,外来で主治医から説明をお聞き下さい.睡眠時無呼吸症候群と診断された場合,その程度によっては治療を要します.詳細は,『睡眠時無呼吸症候群』の説明文書もお読み下さい.