結核ワクチン・治療研究室
最近の活動状況について
研究課題
- 「結核に対する新しい治療・予防法の開発」
- 「結核に対する新しい診断法の開発」
- 「ヒト多剤耐性結核治療モデルの開発と新しい化学療法剤の開発」
- 「多剤耐性結核(MDR-TB)症及び非定型抗酸菌症(肺MAC症)のSNP解析」
- 「抗IL-6Rレセプターリウマチ治療薬と結核発症の有無について」
- 「SARSウイルスに対するDNAワクチン開発研究」」
- 「呼吸器疾患政策医療共同研究のための支援情報ネットワーク構築に関する研究」
(1) 課題名:「結核に対する新しい治療・予防法の開発」
新しい結核ワクチンの開発(平成11年度~)
(a) 新しいDNAワクチンの開発
WHOより高い評価を得たHSP65DNA+IL-12DNAワクチンの開発:
1) HVJ-liposome/HSP65 DNA + IL-12 DNAワクチンは、マウスよりも結核感受 性が強いモルモットでも結核予防ワクチンとして有効であることを示した。さ らに、ヒトの結核感染に最も近い折り紙つきのカニクイザルモデル(Nature Med. 1996)を用いて、HSP65DNA + IL-12DNAワクチンはBCGワクチンより有効 であることを明らかにした。Vaccine 2004(in press), Immunology 2004(in press)。 この新しい結核DNAワクチン研究が高く評価され、平成16年4月25日~30日WHO (世界保健機関)のSTOP TB Vaccine Meeting のMemberに選ばれた。その会議 において、米国FDAのDr.Brennerより我々のHVJ-liposome/HSP65DNA+IL-12DNA ワクチンは臨床応用に向けて世界の最も切れ味の良い最先端のワクチン4つの うちの1つとして推挙するという発言を得た。すなわち、WHOの場で極めて高 い評価を得た結核ワクチンとなった。 (マウスの系でBCGよりも100倍以上強力なワクチン効果を示した)IL-12 DNA + HSP65 DNAをHVJ-liposomeベクターを用いて、サルでr72f BCGワクチン群と 72f fusion蛋白ワクチンで、強力なワクチンの検討を同時に行った。 それぞ れのワクチンでBCGワクチン群に比し延命効果と胸部X線所見(結核病巣)血沈、 体重減少、延命効果等で強い改善傾向がみられた。
2) 1000倍発現効率が高い(今までのAAVベクターに比し)画期的なAdeno Associated Virus(AAV)ベクターtype5の開発に成功した (ハーバード゛大学 Mulligan教授と共同研究)。 このAAVベクターにすでにHSP65 DNA及びAntigen 85B DNAを導入し、マウスの系で強力な結核免疫増強効果を得た。このワクチ ンと上記のワクチンの組み合わせより長期間効力を発揮する強力なワクチンを 開発する。
3) 経口attenuatedリステリア結核ワクチン(Ag85B)を開発し、結核に対する初 めての経口ワクチンを開発した。 (Infection and Immunity 2004)
4) HSP65DNA+ IL-12DNAワクチンはTh1細胞活性、キラーT細胞活性を強く増強 した。このワクチンによる結核予防効果は結核菌に対するキラーT細胞活性と 強く相関した。
(b) 新しい結核サブユニットワクチンの開発
1)Mtb72f fusion(融合)蛋白 ワクチンはcynomolgus monkey :カニクイザル(最もヒト結核感染に近い折り 紙つきのモデル Nature Med 1996)でBCGよりも強力な抗結核予防効果を示し、 世界の最先端のワクチンであり、ヒト多剤耐性結核患者T細胞の結核免疫を増 強した。 さらに、BCGでprimingし、後に72f融合蛋白ワクチン(boosterワク チン)を行うと、カニクイザルで極めて強力な予防効果が得られた。 日本に おける成人での72f融合蛋白のboosterワクチンが有効であることが強く示唆さ れた
2) Phase?studyを施行中である。健常人volunteerの皮内に72f融合 タンパクをアジュバントAS01(QS21+squallene+MPL)とともに皮下投与し、発 赤・発熱等の副作用及び免疫応答増強効果を検査中である。
(c) 新しいリコンビナントBCGワクチンの開発
1) 72f DNAをBCG菌に導入したリコンビナント72f BCGの作製に成功した。 r72f BCGはマウス、モルモット、サルでBCGよりも強い結核予防ワクチン効果 を明らかにした。上記のワクチン効果は結核菌に対するキラーT活性と相関す ることを明らかにした。
2) このr72f BCGワクチンと上記のHVJ-liposome/HSP65DNA + IL-12DNAワクチ ンの相乗効果をカニクイザルの系で解析中である。
(d) 新しい治療ワクチンの開発
これにIL-6関連遺伝子ワクチン(アデノウ イルスベクターに導入したIL-6 gene + IL-6レセプター gene + gp130 gene) は強力な治療ワクチンとしても極めて有効であることを初めて明らかにしたこ とよりHSP65DNA + IL-12DNAワクチン + IL-6関連遺伝子ワクチンの相乗効果も 解析中である。
(e) モルモットを用いた結核研究で世界のNo.1のTexas A&M大学McMurray教授 と共同研究でHSP65DNAとIL-12DNAワクチンの大規模実験を行い著明な結核予防 ワクチン効果と結核免疫増強効果を得た。 日本ではBCGワクチンを乳幼児に接種することより、中学生や大人でのHSP65 + IL-12 DNAワクチンのブースターを考えている。したがって、結核予防ワクチ ン臨床応用を目指し、サルと同じプロトコールでモルモットの系でprime(BCG 東京ワクチン)-booster(HSP65DNAワクチン+IL-12DNAワクチン)の実験を計画し ている。 また(a)、(b)、(c)のr72f BCGと(d) IL-6関連遺伝子ワクチンを組み合わせ、 同時にサルの系で比較し最も強力なワクチンを開発するとともに、EBMに基づ く新しい結核ワクチンを全世界に普及させる。 (共同研究者、Corixa研究所 S.Gillis博士、S.Reed博士、レオナルドウッド メモリアル研究所(NIH branch WHO支援機関)G.Gelber所長V.Tan博士、 Texas A&M大学 McMurray教授、ハーバード大学医学部R.C.Mulligan教授、 Jen-Shin Lee助教授) これらの結核ワクチン研究や結核研究がWHOより高く評価され、平成16年2月よ りWHO関連施設 となった。 すなわち当臨床研究センターはWHO stop TB partnershipに選ばれた。
(2) 課題名: 「結核に対する新しい診断法の開発」
新しい診断法(平成11年度~)
(a)
1) 結核感染に極めて特異性の高い、ツ反に代わる蛋白DPPDのアミノ酸配 列決定に成功した。 DPPD蛋白は結核感染に特異的で、BCG接種群には反応し ないことがモルモット及びヒト(in vitro)で明らかにした。 さらに、DPPDの ヒト成人のskin testにおいて、結核感染特異性を証明した。 すなわち、BCG 接種者では、PPD(通常のツベルクリン反応)に対する反応は陽性であったの に対し、DPPDに対するskin testは陰性であった。 新しい診断法(DPPD)の第 ?相臨床試験を行い、政策医療呼吸器ネットワークを利用して、全国に普及さ せる。さらに皮内反応の代わりにpatch testで痛みを少なくして皮内反応を検 定するDPPD診断法を開発中である。
2) ESAT-6抗原、CFP-10抗原(結核菌に存在し、BCG菌に存在しない)を用い た新しい結核特異的診断法の確立。 結核患者又は健常人末梢血リンパ球をin vitroでESAT-6又はCFP-10で抗原刺激し、培養上清中のIFN-gを測定した。その 結果、結核感染に特異度の高い、しかもBCG接種した健常人リンパ球には反応 しない、新しい結核感染特異的診断法を開発した。(Am. J. Respir. Cell Med. Biol. 2004)
(b) 結核殺傷タンパク(キラーT由来) granulysinの発見
granulysinが直接結核菌殺傷に関与する画期的な新しいpathwayを発見した (特許取得)。
1) 多剤耐性結核患者PBLのキラーT、NKでの結核菌殺傷蛋白であるgranulysin 発現の著明な低下を明らかにし、新しい結核予後診断法を確立した。 世界で 最初にgranulysin蛋白に対するモノクローナル抗体を作製し
(a)抗結核キラー T細胞から産出されるgranulysin が結核殺傷に極めて重要な役割を果たしてい る発見をした。
(b)Gra DNAワクチンは結核予防効果を示した。 これは結核 菌を直接殺傷する蛋白granulysinをコードするDNAワクチンであり、画期的な 成果が期待できる。
(c)多剤耐性結核患者キラーT細胞のGra蛋白発現の著明 な低下を認めた。すなわち新しい結核予後診断法を確立した。 これらの診断 法も(a)と同様、政策医療呼吸器ネットワークで発展させる。EBMに準じた診断 法開発が可能である。
2) さらにgranulysin transgenic(Tg)マウスの作製に世界に先駆けて成功した。 さらに分泌型 Granulysin Tgマウスの作製にも成功した。これらのTgマウスは 結核免疫を増強し、結核予防効果を示した。
3) 血清中Ksp37蛋白を用いた新しい結核感染予後診断法:キラーT細胞より分 泌され血清中に検知されるkiller secretory protein 37(Ksp37) DNAが解明さ れた。(J.I.2001)。抗Ksp37抗体を用い、結核患者40例の血清中のKsp37値が低 下していることを(P<0.05)初めて明らかにした。さらにKSP37cDNAをCAGベクター に組み込みKSP37transgenicマウス作製に成功した。このTgマウスを用いて結 核免疫とKSP37の機能を解析中である。
(3) 課題名: 「ヒト多剤耐性結核治療モデルの開発と新しい化学療法剤の開発」(平成12年度~)
(a) IL-2レセプターg鎖ノックアウトNOD-SCID-PBL/huのモデルでヒト多剤耐性 結核治療モデルを世界に先駆けて開発した。 我々はIL-2Rg鎖ノックアウトNOD-SCIDを作製し、ヒトT細胞の生着率が従来 のSCIDより100倍以上よく、すべてのリンパ組織及び末梢血にも結核菌に対す るヒトキラーT細胞活性が発現する画期的なIL-2R(-/-)NOD-SCID-PBL/huを開発 した。 したがって、この系に
1)HSP65 DNA + IL-12 DNAワクチン
2)リコ ンビナント72fBCGワクチンを投与して解析した。その結果、HVJ/HSP65DNA + IL-12DNAワクチンはpreliminaryな結果であるが結核治療ワクチン効果を示し た。最もヒト結核モデルに近いSCID-PBL/huを用い、最も強力な多剤耐性結核 ワクチンを開発する。 事実このモデルを用いて結核菌特異的なヒトキラーT 活性(in vivo)の定量化に成功した。このモデルはEBM確立の極めてよい手法と なる。
(b) Toll-likeレセプター(TLR)ノックアウトマウスを用いた多剤耐性結核菌認 識機構の解析と新しい多剤耐性治療薬の開発。 TLR2(-/-)、TLR4(-/-)、MyD88(-/-)マウス等、種々のノックアウトマウスを用 い呼吸器ネットワークを用いて得た多剤耐性結核の免疫エスケープ機構の解明 が大阪大 審良教授、九州大 竹田教授と進展した。 MDR-TbはTLR-4の認識からエスケープすることを初めて発見した。一方、通常 の薬剤感受性TB菌はTLR-2、TLR-4の認識機構を受けることが認められた。 興味深いことに、我々(当センター鈴木、露口ら)が世界に先駆けて発見した MDR-TB菌はTLR-2及びTLR-4両方の認識機構からエスケープすることを明らかに した。 さらに、TRIF(-/-)マウスとMyD88(-/-)マウスを交配し、TRIF(-/-) X MyD88(-/-)ダブルノックアウトをすでに作製した。これを用いてMDR-TB疾患発 症機構を解明中である。
(c) さらに多剤耐性結核菌(MDR-TB)に有効な新しい化学療法剤を開発した。 すなわちINH及びリファンピシン耐性の多剤耐性結核菌に対してもin vitro及 びin vivoで有効であることを明らかにした。すなわち、画期的な化学療法剤 を開発した。その臨床応用を目指し副作用等解析中である。
(4) 課題名: 「多剤耐性結核(MDR-TB)症及び非定型抗酸菌症(肺MAC症)のSNP解析」
(平成14年度~)
まだ良い治療法のない、MAC感染症の患者リンパ球よりDNAの塩基置換(SNP)を検べ、新しい治療法を開発する。 すでに120例近い非定型抗酸菌患者の血液を集めDNA(SNP)を解析中である。 国際医療センター慶長部長、京大白川教授との共同研究で行っている。 さらに、政策医療呼吸器ネットワークを用い200例のMDR-TB患者リンパ球より DNAのSNP解析し新しいMDR-TB治療を開発するprojectが厚生科学研究費森亨班坂谷光則分科会で京大白川教授との共同研究がスタートした。すでに30例近い MDR-TB患者リンパ球を収集した。これらを用いてDNA SNP解析中である。(5) 課題名:「抗IL-6Rレセプターリウマチ治療薬と結核発症の有無について」(平成15年度~)
大阪大学教授(元総長)岸本忠三博士との共同研究。 抗リウマチ薬 抗TNF-α抗体は新しい有力な治療薬であるが、副作用として結核発症の大きな問題が生じている。 我々は岸本忠三元阪大総長と共同研究で、抗TNFa抗体よりも強力(小児リウマチにも有効)である、抗IL-6R抗体治療における結核免疫に対する作用機構を解明し、抗IL-6R抗体臨床応用に役立てるprojectを開始した。〔SARSウイルスに対するワクチンの開発研究〕
課題名: 「SARSウイルスに対するDNAワクチン開発研究」(平成15年度~)
上記の新しい結核ワクチン、DNAワクチン研究は極めて高く評価され、文部 科学省科学技術振興調整費「重症急性呼吸器症候群(SARS)の診断及び検査手法 等に関する緊急調査研究」(班長 吉倉廣国立感染研究所長)のSARSウイルス に対するDNAワクチンの作成を担当することとなった(平成15年度国家プロジェ クト)。さらに、平成15年度のSARS DNAワクチン開発研究が極めて迅速に進展 し(Vaccine 2004 in press, Immunology 2004 in press)、この研究が高く 評価され平成16年度文部科学省科学研究費特定領域研究代表者に選ばれた。又、 国家プロジェクト厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症研究事業「SARS ウイルスに対するワクチン開発」(田口班:平成16年~18年)の分担研究者に 選ばれた。
(1) 中和抗体依存性SARSワクチンの開発 1) SARSウイルスHKU39849のS、M、N、Eの各ウイルス構造タンパクcDNA(共同 研究者 田代眞人部長、Peiris教授)をpcDNA3.1(+)ベクターに構築し、 His-Tag発現ベクターにもこれらのDNAをすべて導入することに成功し、又大腸 菌にもすでにS、M、N、E cDNAを導入した。N及びMのリコンビナント蛋白を精 製した。
2) 国立台湾大学Pei-Jer Chen教授よりSARS TW-1 DNAを入手し、pcDNA3.1(+) ベクターに構築した。これらをヒト免疫グロブリン染色体導入マウス(KMマウ ス:キリン石田功博士との共同研究)に免疫して、P3U1ミエローマ細胞と細胞 融合を行い、すでにヒト型モノクローナル抗体が作製されつつある。
3) 国立感染症研究所エイズ研究センター長山本直樹博士よりSARSウイルスフ ランクフルト株(FFK-1)を入手しウイルスRNAよりDNA作製を開始した。 (HKU39849、TW-1、FFK-1)これらの三種のSARSウイルスDNAはS,M,N,Eでそれ ぞれ1~2の塩基置換、アミノ酸置換がみられている。
4) BALB/cマウスとC57BL/6マウスに4種のS、M、N、E DNAワクチンを筋肉注射 し、血清中の抗体価をSARS DNAを導入したCos細胞に対する抗体結合反応で解 析中。さらに奥野良信博士と共同でVero細胞にSARS Coronaウイルスを感染さ せる系に、これらの抗体を加え感染中和抗体活性を測定中。 ? S、M、N、Eに対するウサギポリクローナル抗体とS蛋白に対するマウス モ ノクローナル抗体を作製することに成功した。
(2) 細胞性免疫(キラーT細胞)による新しいSARS DNAワクチンの開発:
1) マウス?型肺胞上皮cell line(T7)を用いて、すでにたんぱく質抗原に対 するキラーT分化と増殖アッセイ系を確立した。
2) T7細胞にS、M、N DNAを導入し、IFN-g産生によるキラーT活性を測定。
3) SARSウイルスに対するT細胞免疫(増殖反応とIFN-g産生)を増強する pcDNA3.1 SARS(N)DNAワクチンを開発した。
4) さらに、SARSウイルスに対するT細胞免疫(増殖反応とキラーT細胞)を増 強するSARS(M)DNAワクチンを開発した。 ? 現在ヒト免疫応答を強力に増強するアデノウイルスベクターにSARS(S) DNA を挿入中。 ? 肺胞?型上皮細胞、T7クローン細胞にS, M, N, E DNAを導入し、それぞれ の蛋白がT7細胞に発現することを示した。これらの細胞を標的細胞とし、クロー ンレベルでSARS(M)DNAワクチン及びSARS(N)DNAワクチンが肺胞?型上皮細胞の SARS抗原を認識するキラーT細胞を誘導することを明らかにした。
(3) ヒト免疫応答解析モデル(SCID-PBL/hu)を用いたSARSワクチンの開発
1) 健常人PBL(末梢血リンパ球)をSCIDマウスにi.p投与して作製した SCID-PBL/huにDNAワクチンを免疫した。SARS(M) DNAワクチン(SCID-PBL/hu) の血清(ヒト抗体)はSARSウイルス感染Vero細胞に対し、中和活性及びSARSウ イルス増殖阻止活性を示した。抗体依存性SARS(M) DNAワクチンを確立した。
2) SCID-PBL/huの系を用いてタンパク抗原に対するヒト・キラーT細胞の誘導 系を確立した。SARS(N)DNAワクチンがSARSに対するヒトT細胞免疫(増殖反応 とIFN-g産生)を増強することが示された。
3) SCID-PBL/huの系を用いてSARS(M)DNAワクチンがSARSウイルスに対するヒト キラーT細胞を分化誘導することを明らかにした。
(4) SARS Coronaウイルスレセプター (Angiotensin Converting Enzyme ?: ACE? transgenicマウスの作製 すでにヒトACE?DNAを作製した。このDNAをCAGプロモーターを導入したベクター に挿入し、ACE Tgマウス(SARSレセプターTgマウス)を作製中である。
(5) ACE(SARSレセプター) transgenic SCID-PBL/huマウスの作製 上記のACE TgマウスとSCIDマウスを交配し、ヒトSARSウイルスに感染し、しか もSARSウイルスに対するヒトの免疫応答を解析しうる画期的なモデル動物を作 製する。これを用いて新しい治療薬の開発を行う。
(6) 動物Coronaウイルスを用いた動物感染モデル系の開発 SARS Coronaウイルスとhomologyの高いグループ?のmouse corona virus(MHV) と感染cell lineを入手。DNAのクローニングと、pcDNA3.1(+)ベクターを用い たDNAワクチンを作製し、マウスに免疫。MHVの肺感染モデルを作製した。この マウスモデルに、mouse corona virus (S) DNAワクチンを投与し、予防ワクチ ン効果を解析中である。
(7) 共同研究者 国立感染研田代部長、森川室長、自治医大講師吉田栄人博士、大阪府立公衆衛 生研究所部長 奥野良信博士、大塚製薬微生物研究所長松本真博士、香港大学 Peiris(SARS coronaウイルス発見者)教授、国立台湾大学Pei-Jer Chen教授
(8) 行政施策への貢献の可能性:
1) 中和抗体依存性DNAワクチンと細胞性免疫依存性DNAワクチンを合体し、種々 の変異株SARSウイルス(すでに山本直樹教授からSARSウイルスFFK-1株も入手) に対するワクチンが行政として利用できる。
2) スペクトルの広いDNAワクチンは本邦のみでなく国際貢献もなしうる。
3) ヒト型モノクローナル抗体を作製中であり、ヒト臨床応用に向けた行政施 策貢献となる。 4) SARS(M) DNAワクチンにより得られたMに対する抗体(ウイルス増殖阻止) と(S) DNAワクチンの両者で相乗効果が得られれば行政施策貢献となる。
(9) 今後の予定
1) SARSウイルス感染Vero細胞を用いて、S, M, N, E DNAワクチンのうち、最 も強力な中和抗体依存性DNAワクチンと最も強力なキラーT依存性DNAワクチン を選ぶ。
2) 1000倍発現効率が良いAAVベクターを用いたDNAワクチンを開発し、ヒトの 臨床応用を目指す。 3) ヒト中和抗体、ヒトキラーT誘導SCID-PBL/huモデル、ヒト免疫グロブリン 染色体導入マウス、及びヒト免疫グロブリン染色体導入牛(マサチューセッツ 大学B.Osborne教授との共同研究でNIH(米国)研究費共同出願中)を用い(1) (2)をヒトの系で解明し、少量モノクローナルSARS抗体、ヒト型ポリクローナ ルSARS抗体で治療ワクチンを開発する。
4) サルのSARS感染系及び、SARSレセプター(Angiotensin Converting Enzyme ?)Tgマウスを作製してワクチン効果を解明。
各診療科、検査科との協力関係について
部長、結核治療研究室長(併任)、研究員、流動研究員は新しい結核ワクチンの開発、新しい結核化学療法剤の開発、新しい結核特異的診断法、新しい結核予後診断法の開発を肺結核患者の血清・リンパ球・病理組織を用い、研究検査科、呼吸器科、内科、外科と極めて緊密な共同研究を行い、非常に高い評価を厚生労働省より得るとともに、これらのデータを解析、評価し、その結果を検査科、呼吸器科、内科、外科のグループにフィードバックすることにより、日常の診療に役立てている。 事実、結核感染特異的な新しい診断法を開発し、ツベルクリン反応に代わる検査として院内のみでなく本邦で使用される検査法 (ESAT-6 + CFP10刺激IFN-g産生)を確立した。
第一呼吸器外科医長は結核予防研究室長を併任しているが、多剤耐性結核の手術例の結核組織病理及び血清を我々が発見したgranulysinに対する抗体染色を行い、granulysinが結核予後診断に有用であることを臨床研究センターで解析、評価し、又、肺がんの悪性度に関するデータを抗体(L985p抗体及び L523s抗体)を用い臨床研究センターで解析・評価し、その結果を外科にフィードバックし、手術方法などの日常の診療に役立てている。 また、VATS(胸腔鏡下肺生検)を行い、組織や浸潤リンパ球を臨床研究センターで解析し、その結果を内科にフィードバックすることにより日常の診療に役立てている。
研究検査科長は臨床研究センター院内研究員の身分でもあるが、びまん性肺疾患VATSの組織の免疫染色やBALのFACS解析や肺がん組織の特殊染色を臨床研究センターで解析・評価し、その結果をフィードバックすることにより、外科・内科・呼吸器科の日常の診療に役立ている。 一方、新しい結核ワクチンや新しい肺がんワクチン開発のための動物実験(臨床研究センター)の肺病理組織の作製及び免疫染色を研究検査科の協力のもとに行っており、その結果臨床応用へ向かって臨床研究が迅速に進んでいる。
国立病院機構南京都病院内科医長は結核診断研究室長を併任しているが、南京都病院の難治性結核患者のリンパ球及び結核菌を上記の免疫学的及び遺伝子学的に、臨床研究センターで解析、評価し、その結果を南京都病院内科にフィードバックすることにより、日常の診療に役立てている。