活動状況
主な活動状況(特に臨床、患者治療との関係について)
臨床研究センター長 新井徹
(1) 施設の機能付与及び特徴(政策医療ネットワークに関して、また、臨床機能上の特徴)
当院は本邦で最も多く結核患者及びびまん性肺疾患患者を収容している国立施設の一つであり、さらに、本邦で抜きんでて最も肺がん患者数が多く、手術症例も多い国立病院機構呼吸器疾患高度専門医療施設として高く評価されている。 したがって当院は呼吸器疾患(結核を含む)の準ナショナルセンターとしての高度専門医療施設として、(8基幹医療施設を含む)54専門医療施設を国立病院機構政策医療呼吸器ネットワークを利用して束ねてリードして共同研究を行い、世界に誇る日本の最先端の臨床研究を行う使命がある。 政策医療(1.結核 2.肺がん 3.呼吸不全・びまん性肺疾患)の臨床研究を精力的に行ない、政策医療呼吸器ネットワークを当院が中心となり作製しつつある。
さらに、国外・国内の超一流の多数の研究所・病院との緊密な共同研究を行っている(図)。上記の呼吸器疾患に対して、免疫学的解析、遺伝子工学的手法を用い、患者に還元できる治療法、新しい診断法を開発する臨床研究を行うことを目的とする。
また、エイズ拠点病院である。 さらに、臨床研究センターとなり、5部門(1.政策医療企画部 2.結核研究部 3.感染症研究部 4.肺がん研究部 5.呼吸不全・難治性肺疾患研究部)の臨 床研究すべてが当院に付与されている。上記呼吸器疾患の政策医療の臨床と密 接に関連し、政策医療呼吸器ネットワークがより一層進展しつつある。
さらに、2004年結核研究がWHO(World Health Organization)より高く評価さ れ、今後当臨床研究センターはWHO関連研究施設(WHO STOP TB Partnership) として機能する施設として選ばれた。
(2) 臨床研究センターの主な活動状況 (特に臨床、患者治療との関係について)
平成11年度より現在も引き続き厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「抗結核キラーTリンパ球と新しい結核ワクチンDNAワクチンの開発による新しい予防・診断・治療法」の主任研究者に選ばれ、極めて高い評価を得ている。 2004年WHO(世界保健機関)のSTOP TB Vaccine meetingのメンバーに選ばれた。事実、当臨床研究センターで開発されたDNAワクチンを世界の最先端の結核ワクチンの一つとして高い評価をWHOより受けた。さらに、この結核DNAワクチンが評価され、今、全世界の最大の問題となっている重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスに対するDNAワクチン開発の日本の国家プロジェクト(文部科学省科学技術振興調整費、科学研究費特定領域及び厚生労働科学研究費助成金)を担当することになった。事実、抗体依存性SARS ワクチンとキラーT依存性SARSワクチンの開発に成功した。
また、平成12年度より厚生労働科学研究費補助金(がん克服戦略)「新しい治療法の開発に関する研究:国立病院・療養所呼吸器ネットワークを利用した、肺がんに対する新しい治療法の開発」及び(新興・再興感染症研究事業)「国立病院・療養所呼吸器ネットワークを利用した多剤耐性結核に対する新しい治療・診断法の作成」及び平成14年度より「国立病院機構政策医療呼吸器ネットワークを利用した多剤耐性結核患者宿主要因のSNP解析及びT細胞免疫解析」に選ばれ、臨床、患者治療に直結する研究を行っている。
すでに、特に臨床応用、患者治療が間近な 1. 新しいHVJ/HSP65 DNA + IL-12DNAワクチンはマウスで従来のBCGワクチンより強力な抗結核効果があることを示し、さらに最もヒトの結核モデルに近いカニクイザル(Nature Med)のレベルでBCGよりもはるかに切れ味の良い強力なワクチンであり、臨床応用に近いワクチン開発に成功した(Phase ? studyを計画中)。
この、マウスでBCGより強力なHSP65DNA + IL-12 DNAワクチンはカニクイザルでワクチン効果を示した最初の結核ワクチンとなった。 新しい結核サブユニットワクチン72f融合タンパク及びリコンビナント72f BCGワクチンを作製しこれらもカニクイザルで結核予防に著効を示した。 2. 新しく遺伝子クローニングされたDPPD蛋白を用いた、ツベルクリン反応に代わる新しい結核感染特異的診断法が、ヒトの皮内反応レベルで開発に成功した。
さらに、ESAT-6 + CFP-10を用いた新しい結核特異感染診断法を開発した。 3. 抗体依存性SARSワクチンとキラーT依存性SARSワクチンの開発に成功した。 4. 肺がん拒絶抗原を用いた新しい治療法、サイトカイン(IL-6関連遺伝子等)遺伝子治療を肺がんに応用している。 新しい13種の肺がん特異抗原遺伝子(10 種の非小細胞肺がん拒絶抗原と3種の小細胞肺がん拒絶抗原)を発見した。 これらは肺がん患者キラーTを活性化すること、及び早期肺がん患者血清中にこれらの抗体が検出され、新しい治療法、新しい早期診断法となる発見をした。
さらに、小細胞肺がんに特異的なL985p抗原を発見した。 5. 肺がんに対する最新の化学療法剤(抗がん剤)分子標的治療薬の臨床治験は国立病院機構の中でも抜きんでて活発である。事実、厚生労働省がん助成金で多数採択されている。 また、堺医師会との共同研究(気管支エコーによるstage分類)や研修指導(画像・病理組織:当院に全国屈指の呼吸器病理担任医がおり)が活発で高度医療・地域医療の進展に貢献している。 結核・非定型抗酸菌症の診断・治療・結核菌検査に関するガイドラインを作成した。 ガイドラインは政策医療呼吸器ネットワーク上で公開されており、我が国の抗酸菌症診療の模範と成るべく常に改定作業を実施している。
特に難治抗酸菌症である多剤耐性肺結核と肺MAC症については既存の薬剤と外科的手技を最大限に活かして排菌陰性化を可能にした。 さらに、関西の複数の国立病院機構呼吸器専門施設において、多剤耐性結核菌が通常の結核患者に感染することを初めて見出し、すなわち、スーパースプレッダー多剤耐性結核患者の存在を世界に先駆けて発見した。このことより、院内感染対策のみでなく厚生労働省の結核対策(個室化)に大きな指針を示し、極めて高い評価を得た。さらに、MDR-TBの遺伝子解析により、MDR-TBがグループ化できたことより、 MDR-TB菌も想像以上に日本ではヒトへの感染能力を有していることが示唆された。 特発性間質性肺炎の検討会を通じて血清マーカー(KL-6、SP-D)の研究を臨床に還元し、治療方針を決定し患者診療レベル(予後)が向上した。 肺胞蛋白症に関しては全国で、GM-CSF治療の薬剤調達を行い、中心的役割を担っており(厚生労働科学研究費 びまん性肺疾患研究班と厚生労働科学研究費肺胞蛋白症研究班の両班)、GM-CSFによる新しい治療を先駆けて行っている。 このように各研究部は患者、臨床治療に還元でき、密接に関連する、最先端の臨床研究を行っている。