肺胞蛋白症

肺胞蛋白症とは

肺胞(気管支の一番奥の小さな袋)に蛋白(正確にはサーファクタント蛋白や脂質など)が貯まり、それによって肺が本来すべき機能(酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出すこと)が上手く出来なくなる病気です。サーファクタントとは、肺胞の表面を薄く覆っている物質で、表面張力を弱めることで肺胞がしぼまないようにする役割があります。サーファクタントは肺胞の表面をおおう肺胞上皮細胞で作られ、肺胞マクロファージという細胞で処理され、ちょうどよい量に調整されています。様々な理由で、これら2つの細胞の働きの異常が起こると、肺胞の中にサーファクタントがたまり、肺胞蛋白症が発症します。

 

肺胞蛋白症の種類

1) 自己免疫性肺胞蛋白症

肺胞マクロファージをしっかりと機能するようにさせる役割があるGM-CSFという物質に対して抗体(邪魔する物質)が出来てしまい、肺胞マクロファージがうまく機能しなくなることで病気が発症します。肺胞蛋白症の9割を占めますので、多くの患者さんがこのタイプです。GM-CSFに対する抗体検査は、検査会社で測定可能となりましたが、保険がききません。自費、または、病院負担での検査となります。

2) 続発性肺胞蛋白症

血液疾患や膠原病(リウマチ性の疾患)に伴って発症します。

3) 先天性/遺伝性肺胞蛋白症

肺胞マクロファージや肺胞上皮の働きに関連した遺伝子の異常で、これらの細胞の働きが異常となり発症します。

4) 未分類肺胞蛋白症

上記に分類されない場合、未分類肺胞蛋白症と呼び、経過を通じて繰り返し評価します。

 

どのように診断しますか?

1) 症状

肺胞蛋白症の最初の症状は運動時の息切れや咳が多いです。ただ、肺胞蛋白症の患者さんの約3割は無症状で、肺の画像で異常が指摘されたことを契機に診断される方もたくさんいらっしゃいます。肺胞蛋白症は病気の広がりの割に自覚症状が乏しいことが特徴ともされます。症状がないから大丈夫とは言えませんのでご注意ください。

2) 肺胞蛋白症の診断

多くの肺胞蛋白症の方は、肺のCTで「メロンの皮」に似ているとされる異常な陰影を認めます。また血液検査ではKL-6、SP-D、SP-Aなどの項目が上昇します。しかしこれらの特徴だけでは確定診断はできません。
正確な診断には気管支鏡検査(肺のカメラの検査)が必要です。気管支肺胞洗浄液(肺胞の一部に水を入れて、その後回収した液体)では特徴的な「米の研ぎ汁」に似ている白く濁った外観を呈します。また気管支鏡検査で採取した肺組織検体は病理医によって顕微鏡で詳しく検討され、肺胞蛋白症かどうか診断されます。

3) どの肺胞蛋白症か診断する

肺胞蛋白症の診断がつきましたら、次は、先に示しました、どのタイプの肺胞蛋白症かを調べていきます。GM-CSF抗体濃度がカットオフ値(正常値と考えられる)より高値なら自己免疫性肺胞蛋白症と診断できます。GM-CSF抗体が低値の場合、血液疾患・感染症や粉塵など、肺胞蛋白症の原因となる病気や患者さんの背景があれば、続発性肺胞蛋白症と診断されます。

いずれでもない場合、遺伝子異常が原因とされる先天性/遺伝性肺胞蛋白症の可能性を考えて、遺伝子検査が必要になります。当院では遺伝子検査の実施はできませんので、他の施設での実施を検討することになります。
気管支鏡検査が嫌なので、血液検査、CT検査、GM-CSF抗体で診断できないのかというご質問を受ける場合がありますが、GM-CSF抗体はあくまでも肺胞蛋白症の診断がついた後で分類をするための検査です。また他の疾患でもGM-CSF抗体がカットオフ値以上になる場合があります。

 

診断後の経過はどうなりますか?

肺胞蛋白症は一般的に一生付き合っていく病気であり、厚生労働省の指定難病で一定の基準(管理重症度III度以上)を満たせば医療費の補助の対象疾患です。ただし、必ずしも重症の症状を示すとは限りません。治りはしませんが、自然に病状がよくなる、“自然軽快”を20-30%の患者さんに認めます。適切に管理していけば、この病気そのもので死亡に至る可能性は高くはありません。肺胞に蛋白が貯まることで酸素が足り苦しくなれば、酸素吸入を開始し、様子を見た上で、後に示す全肺洗浄を検討することもあります。

自己免疫性肺胞蛋白症では、肺胞マクロファージという細胞の働きが低下しますが、この細胞は、細菌やウィルスなどの病原体を殺してくれる細胞です。結果として、感染症に対して弱くなります。通常の肺炎を繰り返すようなことは多くありませんが、真菌(カビ)や抗酸菌といった、必ずしも普通の方が感染しない病原体に弱くなることがあります。また、原因はまだわかっていませんが、一部の患者さんにおいては、肺が硬くなり(間質性肺炎や肺線維症と言います)、呼吸困難が進行することがあります。

ですから、定期的に採血、レントゲン、C T、肺機能検査などを行い、酸素吸入や全身麻酔下全肺洗浄は必要ないか、感染症や間質性肺炎の合併がないかを検討させていただくようにしています。一旦病状が良くなっても、再度、悪化することは、しばしば経験します。定期的に経過観察を行い、適切な時期に、適切な検査、治療を検討したいと考えています。症状が乏しくても、慢性に感染症や間質性肺炎が進行し、明らかな症状が出現した時には、かなり悪くなっているような場合もあります。肺胞蛋白症は病気の広がりの割に自覚症状が乏しいことが特徴ともされます。油断は禁物ですので、継続受診をお勧めいたします。

 

どのような治療法がありますか?

1) 全身麻酔下全肺洗浄術

自己免疫性肺胞蛋白症に対する標準的治療です。全身麻酔下で肺を15-20リットル程度の水で洗い、肺胞に貯まった「蛋白」を取り除く治療法で、呼吸状態が改善する可能性は高い治療法です。しかし、あくまでも肺胞に貯まった「蛋白」を取り除くだけで、原因がなくなった訳ではありません。再度、病状が悪くなれば、繰り返し行う必要があります。また、実施にあたっては、感染症など合併症の可能性もあります。当院では、内科で行う手術との位置付けで実施をしています。年齢、他にお持ちのご病気、病気の重症度によっては、実施できない場合もあります。実施するかどうかは専門の医師によって慎重に判断されます。実施可能な施設は現時点では限られています。

自己免疫性肺胞蛋白症以外の肺胞蛋白症に対する、全身麻酔下全肺洗浄術の有効性は確認されたとは言えませんので、通常は行われません。

2) 気管支鏡による肺洗浄

気管支鏡検査により部分的に洗浄する「区域洗浄」という方法です。

1回の治療で500mLから1L程度の水による洗浄になりますので、有効性は限られており、当院ではあまり実施されていません。

3) 遺伝子組み換えGM-CSF吸入療法

自己免疫性肺胞蛋白症はGM-CSF抗体によりGM-CSFの働きが抑えられ、肺内でGM-CSFが不足することで発症します。

そのため、GM-CSFを吸入薬で外から補う治療法が有効ではないかと考えられました。GM-CSFにはサルグラモスチムとモルグラモスチムの2種類の製剤がありますが、現時点(2022年)でGM-CSF吸入療法の保険適応はありません。現在、まだ治験や臨床研究を行っています。

 

当院での肺胞蛋白症の診療実績

肺胞蛋白症は全国で900人程度しか罹患していないとされる非常に稀な疾患です。

また病態はまだまだ未知の部分が多く、治療法も発展途上です。当院では専門の施設として肺胞蛋白症に関して日本で有数の診療実績を有し、様々な研究活動も実施してきました。近畿を中心に全国から当院に患者さんが受診しておられます。2018年の段階で、当院において気管支鏡で診断した患者さんは86人で、150人の患者さんの診療に関わってきました。実施施設が限られる全身麻酔下全肺洗浄についても、これまで30例以上の患者さんで実施してきました。GM-CSF吸入療法についても過去の臨床試験、3つの治験全てに企画段階から参加してきました。

その他
自己免疫性肺胞蛋白症と先天性/遺伝性肺胞蛋白症は厚生労働省の指定難病であり一定基準(管理重症度III以上)を満たす場合医療費の補助があります。
詳しくは
難病情報センター 肺胞蛋白症(指定難病229)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4774をご参照ください。

また以下の当院で管理しているホームページでも肺胞蛋白症の情報を発信していますのでご覧ください。

肺胞蛋白症一般向け情報サイト
http://www.pap-support.jp

肺胞蛋白症専門情報
http://www.pap-guide.jp

肺胞蛋白症英語サイト
http://www.pap-guide.jp/en/