肺動静脈奇形(AVM)

肺動静脈奇形(AVM)とは

肺には肺動脈と肺静脈があります。正常な肺動脈と肺静脈は間に毛細血管を介して緩やかにつながっていますが、肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さずに直接つながってしまい、まるでできもののように膨らんでいる状態になることがあります。これを肺動静脈奇形(AVM)といいます。肺癌検診で見つかったり、他疾患の通院中に胸部レントゲン検査や胸部CT検査で偶然みつかることがあります。発見時の多くは無症状ですが、放置すると息切れや塞栓性脳梗塞・脳膿瘍の原因となり治療後も後遺症を残すことがあります。これは毛細血管の機能として酸素の交換や血液中の血栓や細菌を除去するフィルターの役割が働かないためです。また肺動静脈奇形のふくれている部分が破裂すると血痰、喀血、胸腔内出血が起こり命に関わることがあります。

肺動静脈奇形の多くは非遺伝性ですが、遺伝性の疾患が隠れている場合もあります。遺伝性の疾患はHHT(遺伝性出血性末梢血管拡張症/オスラー病)と呼ばれる疾患で、繰り返す鼻出血・各種臓器の動静脈奇形(肺・脳・肝臓に多い)をきたす全身疾患です。残念ながら当院ではその症状の全てに対応することはできませんが、症状が多岐に渡るため受診窓口がみつからずに困っていらっしゃる患者様も多く、当院はその受診窓口となっております。研究会や患者会のご案内もさせていただいておりますので、お困りの場合には当院へご相談ください。

 

肺動脈塞栓術とは

こうした様々な合併症を起こす可能性があるため、無症状のうちに治療することが推奨されています。以前は手術で肺ごと病変を取り除く治療方法が第一選択でしたが、現在では血管内から金属コイルを詰めることで治療する肺動脈塞栓術が低侵襲であり、当院でも3泊4日の入院で肺動脈塞栓術を行っています。
 胸部レントゲンやCTで肺動脈奇形の疑いがあると判断された場合はまず当院初診外来に受診してください。造影CT検査を行った上で病変の形や個数などを評価し、喀血外来で個別に治療内容を検討します。

 

肺動静脈奇形の内容・術前検査

肺動脈塞栓術は血管造影室の検査台に仰向けに寝た状態で行います。
まず、最初に径3mm程度のシースと呼ばれる細い管を血管内に留置します。
この時痛みを感じる可能性がありますので、十分に局所麻酔を行い痛くないように配慮しています。

次にカテーテルと呼ばれる径2mm程度の治療用の管をシースから入れ進め心臓を通り抜けて肺動脈まで進めます。
一時的に動悸を感じることがありますが通常はすぐにおさまります。
カテーテルから造影剤を流し形状を詳しく検査をした後、そのまま続けて治療を行います。
さらに細いマイクロカテーテルを入れ進め、その先端から径1〜15mm程度のプラチナ製の金属コイルを出して肺動静脈奇形の部分を詰めます。
血管奇形がコイルでしっかり塞がれていることを確認すれば治療は終了です。

治療終了後は治療用の管を抜き、術後に出血しないようにしっかり抑えて止血をします。
安静時間は止血の状況によって異なりますので術後個別にお伝えいたしますが、通常は足の付け根から治療を行った場合2時間程度ベッド上で安静にしていただく必要があります。

肺動静脈塞栓術の術前検査として、造影CT検査を行い血管の3D再構成をします。
手術前日までにこの検査結果を含めた総合判断により治療範囲や治療回数を決定いたしております。肺動静脈奇形が1カ所のみの場合治療は通常単回で終了しますが、複数個病変部が認められる場合は複数回治療を行う場合があります。
複数回治療を行う場合でも、カテーテル治療は外科的手術に比べて体への負担は軽く、状態により繰り返し行うことができます。

 

長期成績について

本治療の本邦での治療成績は施設間で差がありますが約10-20%で血流が再開(再発)することが知られています。

血流が再開した場合には脳塞栓や脳膿瘍が生じるリスクが考えられ、再治療が必要となります。また遺伝的素因のある症例では新たな病変が大きく成長する可能性があります。

このため術後は定期的な経過観察が必要です。再発が疑われる場合や新たに病変が出現した場合にはまず造影CT検査もしくはMRI検査を行い、必要な場合は追加治療(カテーテル治療もしくは外科的肺切除術)を検討いたします。

 

肺動脈塞栓術に伴う合併症のリスク

以下のような合併症のリスクがあります。
1) 造影剤、局所麻酔薬(キシロカイン)などの薬剤アレルギー
2) カテーテルの刺激による動悸
3) 脳梗塞などの血栓症
4) 肺動脈、肺静脈損傷など血管の損傷、肺動静脈奇形の術中破裂
5) 別の臓器へのコイルの逸脱
6) 感染症、発熱
7) 術後腰痛
など
1)、2)と7)の発生頻度は高いですが一過性です。その他の合併症は起こりうるものの頻度は低いです。

代替可能な治療

従来型の治療として外科手術(血管奇形部分を含めた肺の切除)があります。こちらは当院外科で施行可能です。
必要な方には個別にご提案しています。


金銭面の負担について

治療は全て保険内診療ですが比較的高額になるため、国の減免制度である高額医療制度をご利用いただくことが多いです。

高額医療制度を利用される場合は治療内容に加え個々の収入や年齢に応じて負担額が違います。

今まで制度を利用されていない方は院内に案内窓口がありますのでご希望の方は外来受診時にその旨をお伝えください。