サルコイドーシスとは
サルコイドーシスは全身の様々な臓器に類上皮細胞肉芽腫と言われる病変を認め、障害を呈します。この類、上皮細胞肉芽腫は乾酪壊死を伴わないのが特徴です。
原因は明らかにされていませんが、いくつかの説が推定されています(後述)。
疫学
最近、若年発症のサルコイドーシスが減少し、高齢発症例が増えてきています。
女性では20〜34歳、50〜60歳の2峰性に分布し、男性は20〜34歳にピークがみられます。
症状
発見動機は、健康診断が28.0%、自覚症状が56.5%である[1]。
無症状が26.2%であり、有症状が73.8%、視覚症状(ぶどう膜炎)が28.8%、咳嗽が18.3%、息切れが12.4%、皮膚症状(皮疹)が9.6%、倦怠感が6.6%、発熱が6.1%であった[1]。
経過はいずれの臓器病変においても自然軽快、増悪があり、多様です。
肉芽腫が継続して難治化する例もありますが、多くの難治化例では、肉芽腫が消失し、線維化に進展し難治化を示します。
検査所見
胸部画像所見異常が86.%にみられ、両側肺門リンパ節腫大は75.8%、眼所見は54.8%、皮膚所見は35.4%、心臓検査所見異常は23.0%にみられます[1]。
病因
疾患感受性のある宿主が環境中の何らかの抗原物質に暴露されることで誘導されるTh1タイプの過敏性免疫反応(Ⅳ型アレルギー反応)に起因すると考えられています。
これまで多くの研究がなされ、多数の仮説が提唱されているが、未だに原因不明とされています。
これまで、欧州では非結核抗酸菌(マイコバクテリウム.アビウム:M.avium)が原因菌と考えられていたが、我が国からアクネ菌(P. acne)説が発信されています。
診断のポイント
● 臨床症状や検査所見が多彩なため、全身の系統的な診察および総合的な判断が重要です。
● 診断に際しては、組織学的に肉芽腫を証明し、多臓器病変(2臓器以上)であることが重要視されています。
原則、我が国の診断基準(2015年)、重症度分類2)に従い診断します。
類上皮細胞肉芽腫が証明されれば組織診断群となり、証明されなければ、呼吸器、眼、心臓の3臓器中の2臓器以上に強く示唆する臨床所見を認め、かつ、特徴的な所見が陽性である場合、臨床診断群となります(詳細は難病情報センター サルコイドーシス(指定難病84)http://www.nanbyou.or.jp/entry/266を参照ください)。
重症度に応じて公費助成の対象となります。
(表1)当院で行っている検査項目
血液検査 | 一般血液、肝機能、腎機能、ACE, リゾチーム, 可溶性IL-2R, |
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尿検査 | 一般、沈渣、必要に応じてCa定量 |
生理検査 | 精密肺機能検査、心エコー、心電図、必要に応じてHolter心電図、6分間歩行検査、動脈血液ガス分析 |
画像検査 | HRCT、PET(心サルコイドーシスにあわせた条件)、Gaシンチ |
気管支鏡検査 | BAL(細胞分画、CD4/CD8比)、TBLBは上肺野3個、下肺野3個採取 |
治療
● 多様な病状を呈するので、病状を考慮して治療適応を決めています。
肺病変のみや肺門リンパ節腫大のみの場合、無治療で経過観察をすることが多いです。
● 急性の変化や高度の臓器障害がみられたり、心サルコイドーシスや眼サルコイドーシスの場合は
治療適応となります。
● 肺サルコイドーシスの治療は、自覚症状、呼吸機能障害がある場合に、ステロイド治療の適応を考えます。
Stage Ⅱ、Ⅲで下記の場合がステロイド治療を検討します5)。
定まった治療法がないため、治療内容については主治医の先生とよく相談してください。
サルコイドーシスで使用される治療薬(表2)と処方の一例(表3)を示します。
① 肺病変による自覚症状(特に息切れと咳)が強い場合
② 明らかな呼吸器障害を来している場合
③ 画像所見の悪化とともに自覚症状(特に息切れ)が増強している場合や、呼吸機能障害の
程度が悪化しつつある場合
④ 胸部CTでの太い気管支・血管周囲の肥厚、気管支の変形、拡張や無気肺(特に上葉)の
悪化する場合
⑤ 自覚症状や呼吸機能障害の程度が軽く、画像所見のみが悪化する場合は、ステロイド剤の
全身投与は慎重に行う。
(表2)サルコイドーシスで使用される治療薬 文献5より改変引用
消炎鎮痛薬(NSAIDs)
抗菌薬
テトラサイクリン系薬(ミノマイシン、ビブラマイシン)
副腎皮質ホルモン
免疫抑制薬(細胞毒性薬)
メトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミド、chlorambucil、
シクロスポリン、タクロリムス、ミゾリビン、クロロキン、ヒドロキシクロロキン
TNF阻害薬*
インフリキシマブ、エタネルセプト
*TNF阻害薬の治療効果は限定的であり、エビデンスに乏しい.
(表3)肺サルコイドーシスの治療の処方例(文献6, 7, 8より引用)
1) プレドニン 0.5〜1.0mg/日より開始し、4週間後より漸減、維持量(プレドニン
5〜10mg/日)で継続するか、中止.
2) プレドニン減量により再燃する場合は、プレドニン20mg/日から維持量(5〜10mg
/日)より、メトトレキサート6m/週を併用する.
3) ミノサイクリン100mg/日またはドキシサイクリン100mg/日(効果不十分の場合
200mg/日まで増量)
■文献
1) Morimoto T. et al :Epidemiology of sarcoidosis in Japan. Eur Respir J 31(2): 372, 2008
2) 四十坊典晴,他:わが国におけるサルコイドーシスの診断基準と重症度分類.日サ会誌 35: 3, 2015
3) Miller BH, et-al: Thoracic sarcoidosis: radiologic-pathologic correlation. Radiographics 15 (2): 421, 1995
4) W. Richard Webb, et al: Sarcoidosis. HIGH-RESOLUTION CT OF THE Lung, Wolters Kluwer Health, Philadelphia, 312, 2015
5) 森下宗彦:管理・治療の基本.サルコイドーシス改訂第2版,長井苑子,最新医学社,大阪,157項,2012
6) 長井苑子:サルコイドーシス.びまん性肺疾患の臨床第4版,びまん性肺疾患研究会,金芳堂,京都,202項,2012
7) 山口哲生、他:テトラサイクリンによるサルコイドーシスの治療.日サ会誌 28: 41, 2008
8) 四十坊典晴,他:治療薬剤2.代替治療薬.サルコイドーシス改訂第2版,長井苑子,最新医学社,大阪,172項,2012