特発性間質性肺炎

●特発性間質性肺炎の分類は?

主要な病型

慢性(3か月以上)の線維化をきたすもの

 特発性肺線維症(IPF)
 特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)

急性(1ヵ月以下)または亜急性(1~3か月)のもの

 特発性器質化肺炎(COP)
 急性間質性肺炎(AIP)
 特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)

喫煙関連(タバコに関連する)

 剥離性間質性肺炎(DIP)
 呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)

まれなもの

 特発性リンパ球性間質性肺炎(iLIP)
 特発性胸膜肺実質線維弾性症(iPPFE)

分類不能型

 

 

それぞれどのような特徴がありますか?

特発性肺線維症(IPF)
 別の項目で、詳しくご説明します。

特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)
 多くは慢性の経過ですが、中には急性または亜急性に進行するものがあります。経過中に膠原病が表に出てくることがあります。治療は多くはステロイド剤、あるいはステロイド剤と免疫抑制剤を組み合わせて行います。進行性の線維化を伴う場合は抗線維化薬を使用することもあります。

特発性器質化肺炎(COP)
 両方の肺に複数の陰影が異なる場所に出たり消えたりする経過が典型的です。通常の感染性肺炎のように発熱や咳が出ますが、抗菌薬の治療では改善しないことが診断のきっかけになることがあります。膠原病や薬剤など原因があることが多いため、原因となりうるものがないかよく見極めることが重要です。ステロイド剤による治療に良く反応することが多いです。

急性間質性肺炎(AIP)
 数日から数週間で急速に呼吸困難の進行を認めます。ほとんどの場合受診時すでに低酸素血症があり酸素の吸入を要します。呼吸不全も非常に重篤です。確立した治療法はなく、通常ステロイド剤や免疫抑制剤が使用されます。

剥離性間質性肺炎(DIP)
 呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)
喫煙と関連があることが多く、禁煙が非常に重要であるためまず禁煙で経過をみます。禁煙でよくならない場合はステロイド剤による治療を行う場合もあります。

特発性リンパ球性間質性肺炎(iLIP)
 膠原病の一つであるシェーグレン症候群に伴って生じることがありますが、特発性は極めてまれです。例が少ないため、治療は全て経験的なものになりますが、ステロイド剤や免疫抑制剤が使用されます。

特発性胸膜肺実質線維弾性症(iPPFE)
 肺の上の方に優位に間質性肺炎の病変がみられます
我が国で世界に先駆けて報告され、上葉優位型肺線維症とも呼ばれます。
ゆっくりと10-20年かけて肺の収縮が進行していきますが、中には経過が早い方もおられます。経過中に、しばしば気胸や肺炎を繰り返します。
PPFEには、特発性(原因の分からない)と二次性(膠原病や移植後などに引き続いて起こる)があります。他の間質性肺炎と同様に、咳、息切れがあります。経過中に、気胸がよくみられます。やせている方や扁平な胸郭の方が多く、体重減少もあります。

診断の確定には、外科的肺生検(全身麻酔での手術)が必要ですが、高分解能CT(HRCT)や気管支鏡での生検の所見から診断することもあります。
CTでは、上葉の胸膜および胸膜の下の肥厚とそれによる収縮がみられます。硬化像や 気管支拡張がみられることもあります。他の間質性肺炎の所見が併存することがあります。

残念ながら、現時点では、有効性が証明された治療薬はありません。線維化を抑えるオフェブという薬の使用を検討することがありますが、効果は現時点で証明されたとは言えず、副作用もありますので、使用するかどうかは主治医と、患者さん、ご家族で慎重にご相談をされてからとなります。治療薬の開発のための治験が試みられています。

 

●治療について

【治療の目標】 
病型によって目標が変わります。可逆性(良くなる)があるものは原因となりうるものの除去(禁煙など)に努めます。非可逆性で進行性のものは、安定化が目標となり、治療にもかかわらず、進行性、非可逆性のものは、進行を遅くすることが治療の目標となります。

【薬物療法】 
主に以下の薬剤を使用します

ステロイド剤:注射剤、内服剤があります。炎症を抑える目的で使用します。病状やタイプによって使用量が異なります。

免疫抑制剤:ステロイド剤と異なる機序で炎症を抑えることを目的に使用します。
抗線維化薬:線維化の進行を緩やかにする目的で使用します。オフェブ、ピレスパがあります。ただし、ピレスパは特発性肺線維症の方のみが使用することができます。

【合併症対策】
・肺がん:特発性間質性肺炎では特発性間質性肺炎がない場合と比較して肺癌が合併する割合が高くなります。肺癌と判明した場合、手術療法や薬物療法、放射線治療はいずれも間質性肺炎の病状が急速に悪化して死亡される危険性がある、「急性増悪」のきっかけとなる可能性があるため、急性増悪が生じる可能性が少なく、効果的な治療法を検討します。

・気胸、縦隔気腫:経過中に、肺が破れて肺のまわりに空気がもれる「気胸」や空気漏れが心臓や気管支、心臓付近の大きな血管周りに起こる「縦隔気腫」が生じることがあります。気胸が起こると、呼吸困難や低酸素状態の悪化、胸痛を認めますが、無症状の場合もあります。気胸は、一般の方にも起こりますが、間質性肺炎に合併した気胸は一般の方の気胸より治療が難しいことがあります。縦隔気腫に対しては、通常経過観察を行います。いずれも慎重な観察が必要で、入院をお勧めすることもあります。

・肺高血圧:間質性肺炎による障害で、肺の中の血管の数が減ったり、血管が細くなったりするために肺の中の血管の圧力が高くなり(「肺高血圧」と呼びます)、心臓から肺へ血流を送る際に負担がかかる「右心不全」という状態になることがあります。労作時の酸素濃度が極端に低くなりやすくなり、場合によっては意識消失を生ずるなど、急激な病状の悪化につながります。必要十分な酸素吸入により、肺血管の圧力が上がりにくくすることが非常に重要となります。

・感染症:ステロイド剤や免疫抑制剤による治療により、感染が起こりやすい状態となります。ほかにも線維化が進行した部位に真菌(アスペルギルス)や抗酸菌(結核や非結核性抗酸菌症)などが慢性の肺炎を起こすことがあり、抗真菌薬や抗菌薬で治療が必要となることがあります。

・急性増悪:数日から一か月以内に急速に呼吸状態が悪化することがあります。原因は感染、まれに処置、手術、薬剤、誤嚥などがありえます。原因不明の場合もあります。ステロイド剤の大量療法や免疫抑制剤で治療することがありますが、致死率が高い状態です。急激に息切れが悪化した場合は、この急性増悪の可能性がありますので、お気づきの場合は、休日でも結構ですからご連絡、ご相談ください。早期の受診をお勧めする可能性があります。

【酸素療法】 
慢性に線維化が進行し、酸素不足になった場合、屋内や屋外で酸素を常に吸入する在宅酸素療法を行います。導入時は入院の上、呼吸リハビリテーションを行いながら使用方法を習得いただき、酸素量を決定します。

【呼吸リハビリテーション】
労作時の息切れが強くなることで活動量が低下し、筋力が低下し、さらに息切れが強くなる悪循環が生じることがあります。また日常生活労作を行う際には息切れを少しでも軽くする工夫があります。定期的に入院の上呼吸リハビリテーションを行うことで日常生活活動ベルを維持することを目指します。

【肺移植】
進行性で予後不良であることが予測され、年齢が60歳未満で、半年から1年の経過で明らかに病状の進行傾向が確認される場合には肺移植(脳死肺移植)が選択肢になります。詳細は、主治医にご相談下さい。

【緩和ケア】
病気が進行することで生じる症状や気持ちのつらさについて心療内科医、心理士、薬剤師、看護師からなるチームで症状を緩和する方法を検討します。

【治験】
当院では積極的に行っています。治験薬は承認される前段階の薬剤ですが、治療の選択肢が少ない間質性肺炎に対する大切な治療の選択肢となります。治験のページを参照されご希望がありましたらまずは主治医にお問い合わせください。

 

●日常生活で気を付けることはありますか?

喫煙は間質性肺炎の発症や悪化の原因となりますので必ず禁煙をしてください。
また、規則正しい生活を送り、過労や睡眠不足などによる体への負担をなるべく避けることが重要です。IPFの方で体重が減るとよくないことがわかっていますので、バランスのとれた食事をとり体重の減少に注意しましょう。
感染症は急性増悪のきっかけとなりえますので、手洗い、うがいを行い、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、肺炎球菌のワクチンによる感染予防を行いましょう。
また、誤嚥による悪化を防ぐために口の中は衛生的に保ち、胃食道逆流が疑われる方は、食後すぐに横にならないようにしましょう。

 

●どのような制度を使うことができますか?

間質性肺炎は根本的な治療が難しいことが多く、進行していくものです。
治療や療養期間は長期にわたり、必要となる医療費が高額となることがあります。
以下の制度を利用することができる可能性があります。
まずは主治医や相談支援センターにご相談ください。

【使用できる可能性がある制度】

  高額療養費制度
  介護保険制度
  身体障害制度
  難病医療費助成制度

参考情報
日本呼吸器病学会 呼吸器の病気 間質性肺疾患
   https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/d/
難病情報センター
   https://www.nanbyou.or.jp/entry/156