進行性肺線維症(PPF)、進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)

【間質性肺炎、肺線維症にはいろいろ病気があるようですが、特発性肺線維症との関係はどうなっているのですか?】

間質性肺炎や肺線維症と呼ばれる疾患は一般的に間質性肺疾患(かんしつせいはいしっかん)とよばれます。間質性肺疾患には200以上の病気が含まれますが、おおきく分類して原因が特定できる場合とできない場合に分けられます。そのうち原因不明の間質性肺炎を、特発性間質性肺炎(とくはつせいかんしつせいはいえん)と呼びます。特発性間質性肺炎はさらに表に示す9種類に分類されますが(表1)、その中でも、特発性肺線維症(とくはつせいはいせんいしょう)は、特発性間質性肺炎の半分以上を占めます。特発性肺線維症は英語の略称としてIPF(アイピーエフ)と呼ばれる事があります。

(表1)

ゆっくり線維化が進行する特発性間質性肺炎 特発性肺線維症(IPF、アイピーエフ)

特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP、アイエヌエスアイピー)
タバコが関連する
特発性間質性肺炎
呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患
(RB-ILD、アールビーアイエルデイー)

剥離性間質性肺炎(DIP、デイーアイピー)
早く進行する
特発性間質性肺炎
特発性器質化肺炎(COP、シーオーピー)

急性間質性肺炎(AIP、エーアイピー)
頻度が少ない
特発性間質性肺炎
特発性リンパ球性間質性肺炎(iLIP、アイエルアイピー)

特発性胸膜肺実質線維弾性症(iPPFE、アイピーピーエフピー)
以上に分類出来ない
特発性間質性肺炎
分類不能型特発性間質性肺炎
(unclassifiable IIP、アンクラシファイアブルアイアイピー)

【特発性肺線維症はどんな病気ですか?】

特発性肺線維症は、ゆっくり線維化が進行する特発性間質性肺炎の中で、胸のCT検査や肺の病理生検検査で、特徴的な通常型間質性肺炎 (UIP、ユーアイピー) パターンを認められます。高齢者に多く、息切れと肺機能検査が徐々に悪化し、間質性肺炎や肺線維症の中でも最も重要な病気と考えられています。

【どのような検査でどのように診断するのですか?】

明らかな原因がないのに動いた時に息切れを感じ、咳が続く(痰はあまり認めない)場合、疑って、近くの病院で、聴診器で音を聞いてもらうと息を吸った時にパチパチと言う音(捻髪音)が聞こえる場合、間質性肺炎、肺線維症が疑われます。胸部レントゲン検査や胸部CTでは、左右の肺が白っぽくなります(浸潤影)が、初期には胸部CTでなければ分からない事もあります。年齢60歳以上では、特発性肺線維症の可能性が高くなると言われています。

病院では、まず、家庭や職場の環境でアレルギーの原因はないか、服用している薬やサプリメントとの関連、膠原病(間接リウマチや強皮症など)はないか、ご家族親戚におなじような病気の方はいないかなど詳しく聞かれて、可能性のある原因が潜んでいないか調べられます。
各種血液検査、胸部の高分解能CT(HRCT、エッチアールシーテイー)、必要であれば気管支鏡検査(BALと呼ばれる気管支肺胞洗浄液、肺生検)が行われ、さらに全身麻酔を行って外科的肺生検が行われる事もあります。
HRCTが典型的な場合は、気管支鏡検査や病理生検を行わなくても診断が可能とされています(図1)。
これらの結果を踏まえて最終的に、呼吸器科医、放射線科医、病理医などによる、症例検討会{多分野による集学的検討(MDD、エムデイーデイー)}によって診断が確定されます。

診断後は、病気の程度(重症度)や合併症がないか調べる検査が行われます。重症度は、安静時の動脈血液ガス検査と6分間歩行試験が行われます。合併症の検査として、必要に応じて、心臓の検査(心電図、心臓超音波検査、必要であれば心臓カテーテル検査)、肺癌や感染症の合併を調べる検査、肺外の検査も行われます。

図1 特発性肺線維症の胸部レントゲン(左)と胸部HRCT(右)。
HRCTでは蜂の巣のような小さな穴(蜂巣肺)が下肺野背側を中心に、胸膜直下に並んでいる。
【どのような治療が行われ、どのような経過をたどるのでしょうか?】

特発性肺線維症の治療は、以前は有効な治療法が無いと言われていましたが、今は肺が硬くなるスピードを遅らせる抗線維化剤による治療が一般的に行われます。わが国では現在2種類の抗線維化剤が承認されています。病気の状態、副作用、医療費などの説明をよく聞いて総合的に治療開始するかどうか判断されます。他の疾患の可能性が残る場合や典型的でない場合は少量のステロイド等が用いられる事もあります。

抗線維化剤の治療を開始する場合、副作用、効果を確認するために定期的に検査が行われます。開始しない場合も、定期的な検査を継続することで、抗線維化薬を開始するタイミングの検討や、急性増悪(後述)の発症を判断することが可能となります。

原因不明の特発性間質性肺炎は診断時に原因が特定出来なくても、その後に膠原病が出てきたり、その他の原因が明らかになることがあります。特に分類不能型では定期的に診断の見直しも必要です。肺が硬くなるスピードは患者様毎に異なります。安定していても、急性増悪(きゅうせいぞうあく)と言って、一ヶ月くらいの経過で急に悪くなることがあります。急性増悪時は基本的に入院してステロイド、免疫抑制剤などの治療が行われます。また肺癌や感染症を合併する事もあります。
血液の酸素濃度が低くなった場合は酸素療法(長期酸素療法、在宅酸素療法)が行われ、多くの場合、呼吸リハビリテーションも併用されます。禁煙、感染予防(ワクチン接種、手洗い、うがい)は一般論として必要です。

年令が若い患者様では適応あれば肺移植も行われます。

尚、最近、特発性肺線維症の患者様を対象とした、様々な新薬の開発(治験、チケン)が行われています。治験は標準的な治療を受けながら参加することが可能である場合も多くなっています。ガイドラインでは新薬開発の情報を患者様に伝える事も重要とされています。

【そのほか】

特発性肺線維症は厚生労働省の難病医療費助成制度で指定難病のひとつに指定されています。一定の基準を満たし、申請が認定されれば、指定医療機関で医療費の補助をうける事が可能です。また、呼吸機能の障害が一定基準を満たす場合、身体障害者手帳制度、重度障害者医療費助成制度に基づき医療費の助成をうける事が可能です。詳しくは医療ソーシャルワーカー、主治医にお尋ねください。