過敏性肺炎

過敏性肺炎とは

過敏性肺炎はさまざまな抗原(アレルギーの原因となるもの)を吸入することにより生じるアレルギー性の肺疾患であり、間質性肺炎(間質性肺炎については他項参照)の一種です。

アレルギー疾患であるため、花粉症と同様に同じ抗原を吸い込んでも発症する人と発症しない人がいます。
また、繰り返しの吸入で徐々に感作(抗原に対して体が反応するようになること)されるため、直近の環境の変化がなくても、月日が経過するとともに発症することが一般的です。
過敏性肺炎で大事なことは、正確に診断をして、原因物質(抗原)が明らかになり、接触をたつことができれば、明らかに病気の進行をゆっくりにしたり、止めたりできる可能性があるということです。

 

過敏性肺炎の分類

2つの分類方法があります。

●症状の出方に注目した分類

 ①急性過敏性肺炎、②慢性過敏性肺炎
 患者さんの症状に結びついた分類ですので、患者さんは理解しやすいと思います。
 この説明文では、こちらの分類を主に説明させていただきます。

●肺のC T像や肺組織をとって調べた所見に注目した分類

 2022年の日本呼吸器学会のガイドラインでも採用されている、新しい分類です。
① 非線維性:炎症が主たる変化です。急性過敏性肺炎が多いです。
② 線維性:線維化という肺が硬くなる変化を伴います。慢性過敏性肺炎が多いです。

 

過敏性肺炎の頻度

●環境に大きく左右されるため気候、職業、住宅環境により大きく異なります。

●海外での報告によると発症率は10万人あたり0.3-0.9人、有病率は10万人あたり1.67-2.71人と報告されています。

●過敏性肺炎は間質性肺炎の一つで、間質性肺炎の約10-20%を占めます。

 

原因物質(これを“原因抗原”といいます)

抗原となりえるものとして、日本では鳥抗原(鳥の羽や糞に含まれる)が60%と最も多く、次いで自宅環境中の真菌(カビ)が25%と続きます。

その他、干し草などに含まれる細菌や、塗料に含まれるイソシアネート、また、最近では加湿器(特に超音波式)で繁殖した細菌や真菌(カビ)なども報告されています。

しかし、これらはあくまで代表的な抗原の一部であり、これまで300種類以上の抗原が報告されています。
地域や気候によって、患者さんの環境が変わるため、原因が変わる可能性があります。

 

病因

過敏性肺炎は患者さん自身の体質と環境中の原因物質(抗原)の相互作用によって生じます。

患者さん自身の発症に関わる要因はまだ十分に解明されていませんが、環境が重要なことは明らかです。

ハト飼育者(鳥抗原が原因)では6-20%、農夫(干し草などに含まれる細菌が原因)では9%と高率に過敏性肺炎が生じたとされています。

 

症状

主な症状は呼吸困難、咳、発熱、倦怠感、体重減少であり、他の呼吸器疾患と変わりません。症状の出現のしかたで、急性と慢性に分類されます。
抗原吸入によるアレルギー疾患であるため、吸入後数時間で症状が出現・悪化し、原因抗原を吸入しなければ、数日で症状が自然に軽快・消失するのが、この病気に特徴的で、この抗原曝露と症状出現の関係性が診断に最も重要になりますが、急性型では明らか場合が多い一方で、慢性型でははっきりしないことをしばしば経験します。

①急性過敏性肺炎の症状

数日~週単位で症状が出現します。
自覚症状が強く、咳や呼吸困難に加えて、発熱、倦怠感などを伴うことが多くみられます。

②慢性過敏性肺炎の症状

月~年単位で症状が出現します。
2つの症状のパターンがあります。

●再燃症状軽減型:初期には発熱、倦怠感を伴う急性の症状を繰り返します。時間経過とともに発熱、倦怠感は改善しますが、呼吸困難、咳が徐々に強くなります。

●潜在性発症型:初期は症状がなく、徐々に呼吸困難や咳が進行します。

 

診断方法および検査

診断のポイント

過敏性肺炎の診断に最も重要なのは抗原曝露・回避と症状の増悪・改善の関係性を見つけることです。簡単に言えば、何かを吸い込むと病気が悪くなり、吸い込まないと良くなるということがないかを調べることが大事です。そのため、問診が最も重要になります。問診にて抗原となりえるもの(トリ、カビなど)が患者さんの生活中に存在しないか、そしてそれらと症状出現との関係性を徹底的に調べます(住居環境、職場環境、鳥飼育歴、鳥製品の使用、加湿器の使用など)。抗原の量は季節により変動する(夏はカビが多く、冬は羽毛製品の使用が多いなど)ため、症状の季節性変動も診断の手がかりとなります。

環境を変える入院検査

原因物質(抗原)からの離れることで病気がよくなるかが診断の大きな手掛かりになるため、過敏性肺炎が疑われる患者さんには2週間程度の入院をお勧めしています。

入院で環境を変えることで病気(症状、採血や肺機能検査の結果)がよくなれば、自宅や職場などの普段の環境の中に原因物質があるかもしれません。

アレルギーを調べる血液検査

●問診や疑われる原因抗原(鳥やカビなど)から離れるだけで診断がつくことは稀ですので、血液検査でアレルギーの有無を調べます。

●アレルギーによる肺の病気といえば喘息が有名で、たくさんの血液検査ができます。しかし、過敏性肺炎の原因を調べるための検査は2種類です。
 ・トリコスポロン・アサヒ(カビの一種)に対する抗体検査
 ・鳥に対する抗体検査

●血液検査は目安にはなりますが、アレルギーがあるからと言って過敏性肺炎の原因と断定できない場合があります。抗体検査が正常でも、カビや鳥が無関係と断定することは難しいです。

●様々な検査結果から、総合的に診断や原因を検討することが必要です。

その他の検査

●胸部CT検査

●肺の組織を調べる検査
気管支鏡検査
それでも診断が十分につかない場合には、患者さんの状態によっては全身麻酔をかけて外科的に肺組織をとって調べます(外科的肺生検)。

●重症度や他の合併症の把握のため呼吸機能検査や6分間歩行試験、血液ガス所見、心電図、心エコーを行います。

●これらは、間質性肺炎の精密検査で一般的に行われる検査です。

 

治療

① 原因抗原を避ける:これが最も重要です。

 治療の基本は原因抗原から離れて、吸わないことです。特に急性過敏性肺炎の場合は原因抗原を全く吸わなければ、薬を使わなくても症状は消失し、再発もしないこともあります。ですから、原因抗原は徹底的に避けて、吸わないことが非常に大事です。慢性過敏性肺炎の場合は原因抗原を避けても進行するケースもありますが、抗原量が減れば進行が緩やかになる可能性も報告されているため抗原を避けることは極めて重要です。以下に示すように、場合によっては転居を検討することもありますので、正確な診断は、この決断には非常に重要となります。

鳥飼育や鳥製品(羽毛布団、ダウンジャケット)が原因の場合は以下の点に注意ください
●アヒル、インコ、オウム、鶏など全ての鳥を避けましょう。
●ご本人のものだけでなく、同居されているご家族のものもすべて捨てましょう。よく、袋に入れて押入れの奥にしまっているという話を聞きますが、お勧めはできません。
●捨てたあとは、ホームクリーニングをお勧めします。
原因抗原が自宅に残っているかもしれません。
決して、ご自身で掃除をしないでください。掃除中に原因抗原を吸って、病気が急激に悪化する可能性があります。家族もしくは業者に掃除をしてもらうことをお勧めします。
●鳥の糞の入った肥料など、鳥に関連したものは全て避けてください。
●鳥の飛来が家の周囲に多い場合は、鳥製品の除去を行っても家の中の鳥の抗原量が多かったとの報告もあるため場合により転居が必要な場合もあります。
●食物アレルギーではないので、鶏肉や卵を食べることは、過敏性肺炎との関連では制限されません。もちろん、食物アレルギーの方は避けてください。

住居のカビが原因の場合
●ホームクリーニング
鳥の場合と同じく、自分では掃除は行わず、ご家族や業者に依頼しましょう。
●ひどい場合は、リフォーム
●リフォームで不十分なら転居が必要な場合もあります
●いきなり転居していただくよりも、試験的に他のご家族の家や、ウィークリーマンションでお過ごしいただき、病気の経過を見ていただいても良いと思います。

その他の原因の場合
原因抗原によって、特殊な対策が必要な場合もあります。
患者さん、ご家族とご相談しながら、対策を考えさせていただきたいと思います。

② 薬物療法

原因抗原を避けても症状が改善しない場合や息切れなどの自覚症状が強い場合には薬の治療を行います。
●炎症が目立つ場合:ステロイド剤や免疫抑制剤など、アレルギー性の炎症を和らげる薬
●肺が硬くなる線維化が目立つ場合:線維化を抑える薬を使用します。

③ その他

他の間質性肺炎と同様に状況に応じて、リハビリ(運動療法)、酸素療法、栄養療法がおこなわれます。また、60歳未満であれば肺移植を検討することもあります。

病気の経過

急性過敏性肺炎では原因抗原を避けるだけで改善し、再発を認めない例も多くありますが、抗原が環境に残っている場合には再発が見られます。

また、再発を繰り返しているうちに慢性過敏性肺炎に移行する場合もあります。

慢性過敏性肺炎の場合でも抗原を避けるだけで進行がとまる場合もありますが、避けても病状が進行することもあります。進行する場合には薬物治療がなされますが、その有効性は患者さんによりさまざまで確実なものではありません。

ですから、できるだけ早期に病気を診断し、原因を突き止めることが、病気の進行を食い止め、長くお元気にお過ごしいただくためには非常に大事です。