肺がんとは
肺がんは肺の気管、気管支、肺胞の一部の細胞が何らかの原因でがん化したものです。
肺がんは進行するにつれて周りの組織を破壊しながら増殖し、血液やリンパの流れに乗って広がっていきます。
肺がんは喫煙との関係が非常に深いがんですが、たばこを吸わない人でも発症することがあります。
周囲に流れるたばこの煙を吸う受動喫煙により発症リスクが高まることもわかっています。
近年、非喫煙者の女性の肺がんが増加傾向にあります。
肺がんは日本人のがんによる死亡原因のトップとなりましたが、まだ増加する傾向にあります。
肺がんの原因
肺がんのリスク要因では、第一に喫煙習慣があげられます。
日本人を対象とした研究(2008年)では、喫煙者の肺がんリスクは男性で4.8倍、女性で3.9倍という結果でした。
煙草が肺がんの発生原因の男性で69%、女性では20%程度と推計されています。
また、受動喫煙によっても肺がんのリスクが高くなると言われており、受動喫煙者は受動喫煙がない人に比べて20〜30%程度高くなると推計されています。
非喫煙者でも受動喫煙の影響によってリスクが上がっていることが、特に女性において示唆されています。
他の環境要因としては、飲料水中のヒ素は確実なリスク要因です。
その他、アスベスト、コールタールなどの職場や環境での暴露も肺がんのリスク要因と考えられています。
肺がんの分類
肺がんは、小細胞がんと非小細胞がんの2つに大きく分けられます。
・小細胞肺がん
小細胞肺がんは、肺がんの約15〜20%を占め、喫煙と強い関連性を示し、ほとんどの方が喫煙者です。
また、がんの増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすく悪性度の高いがんです。
しかし、初回治療では、非小細胞肺がんよりも抗がん剤や放射線治療の効果が得られやすいと言われています。
治療法は、放射線治療が可能な方では、原則、放射線治療+抗がん剤治療、放射線治療が不可能な方では、抗がん剤治療を中心に治療が行われます。
また、ごく初期の小細胞肺がんでは、手術+抗がん剤治療を行うこともあります。
・非小細胞肺がん
非小細胞肺がんは、小細胞がんではない肺がんの総称で、肺がんの約80〜85%を占めています。腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど、多くの異なる組織型があり、発生しやすい部位、進行形式と速度、症状などはそれぞれ異なります。
最も発生頻度が高いのが腺がんで、男性の肺がん全体の40%、女性の肺がん全体の70%以上を占めています。肺の末梢に発生することが多く、症状は多彩で、進行の速いものから進行の遅いものまでさまざまです。また、扁平上皮がんは、男性の肺がん全体の40%、女性の肺がん全体の15%を占めています。太い気管支に発生することが多く、喫煙と関係が深いと言われています。
治療としては、手術が可能な場合は、手術を中心とした治療が行われ、手術後に再発予防の抗がん薬治療を行うこともあります。手術が不可能な場合は、放射線治療が可能な方では、原則、放射線治療+抗がん薬治療を、放射線治療が不可能な方では、抗がん薬治療を中心に治療が行われます。治療選択については、組織型や進行度合いに応じた治療が検討されます。
肺がんの症状
肺がんの一般的な症状としては、なかなか治らない咳(せき)、血痰(けったん)、胸痛、息切れ、声のかれ(嗄声:させい)などがありますが、これらは必ずしも肺がんに特有のものではなく、肺炎や結核などの感染症でも起こります。
こういった症状の改善がなかなか無い場合では、早めの医療機関受診をお勧めします。
また、肺がんは、症状がほとんどでない場合が多く、検診などの胸部単純写真(レントゲン)やCT検査によって発見されることもあります。
喫煙者の方は、肺がんのリスクが高いことから、定期的な肺の検査をお勧めします。
当院でも肺がんCT検診を行っています。
ご希望の方はお問い合わせ下さい。
さらに、肺がんでは転移病変からの症状で気づかれることも多いことが特徴です。
脳の転移からの麻痺症状やふらつき、骨の転移からの疼痛(とうつう)で発見されることもあります。
肺がんの検査
肺がんが疑われると、胸部単純写真(レントゲン)や胸部CT検査により、異常な影が写っていないか、リンパ節の腫れがないか、胸水(きょうすい)がたまっていないかなどを検査します。
その結果、肺がんの疑いがある場合は、気管支鏡検査、CTガイド下生検、胸腔鏡(きょうくうきょう)検査、外科的生検(手術での生検)などを行います。
胸水がある場合には胸水を採取してがん細胞の有無を検査します。
肺がんの病期(肺がんの広がり)
病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、説明などでは、「ステージ」という言葉が使われることが多いです。
肺がんでは、I期(IA、IB)、II期(IIA、IIB)、III期(IIIA、IIIB)、IV期に分類されます。肺がんでは以下の3つの項目によって病期が決められます。
1.原発巣の大きさ、周囲の組織との関係
2.リンパ節の胸の中での広がり
3.原発層や胸の中のリンパ節以外での他の臓器への広がり
肺がんでは、リンパ節や肺への転移の他に、肝臓・脳・骨・副腎への転移が多いとされており、この部位を含めたCT検査やMRI検査、PET検査などがステージングのために行われ、この病期によって手術治療・放射線治療・抗がん剤治療などの方針を決めていきます。
a_CT検査
胸腹部の遠隔転移の有無を検索する目的で使用し、腹部では造影剤はほぼ必須と考えております。当院では造影できない場合はPET-CTを撮ることで腹部やリンパ節の遠隔転移を確認することが多いです。
b_MRI検査
脳転移の検索に非常に有用です。また、癌性髄膜炎の検索にも有用であることが多いです。
c_PET-CT検査
脳を除く、遠隔転移・リンパ節転移の検索に有用です。
ただし、炎症所見(肺炎や結核など)でも陽性(異常)に見えることがあり、鑑別が困難な場合もあります。
この検査は、血糖やインスリンにより影響を受けることが知られています。血糖が上昇すると腫瘍や脳への集積(反応)は低下し、心筋、骨格筋、脂肪は集積が上昇します。
d_骨シンチ検査
骨の転移の有無を評価するのに有用です。しかしながら、陽性所見(異常を認める所見)でも単純骨折や骨関節炎・脊椎圧迫骨折などの鑑別が必要です。鑑別にはMRIが有用となることが多く、骨の転移と骨折との区別が難しい場合は、MRI検査を追加します。
肺がんの病期と治療方針
肺がんに対する治療方針は、肺がんの分類(非小細胞肺がん、小細胞肺がん)と病期(ステージ)に基づいて、全身の状態や年齢、心臓・肺・腎臓・肝臓の機能、合併症なども含めて総合的に検討して決定されます。
当院では、呼吸器内科と外科の総合カンファレンスで手術治療した方が良いかどうかの検討がなされ、放射線治療や抗がん剤治療では呼吸器内科と放射線治療科が参加するカンファレンスで放射線治療や抗がん剤治療の治療方針が決定されます。
小細胞肺がんの病期での治療の考え方
小細胞肺がんはがんが限局した部位にとどまった限局型と遠隔に転移した進展型の二つに分けて治療を考えます。
*限局型
抗がん薬治療と胸部への放射線治療の組み合わせで治療を行います。終了後に追加で、脳転移の再発を予防する目的での脳への放射線治療(予防的全脳照射)を行うことがあります。
手術(I期の場合)
多くの場合、再発予防のために、術後に抗がん剤治療を追加します。
*進展型では
抗がん剤治療と緩和支持療法(がんによる症状を和らげる、治療による副作用を軽減する)が治療の中心になります。
小細胞肺がんは非小細胞肺がんに比べて抗がん剤に対する反応が良好なことが多いですが、根治することは不可能です。
抗がん剤治療や緩和療法によって、がんの進行を遅らせ、症状を和らげ、できるだけ元気で日常生活が送れる時間をつくることを目指します。
骨転移や脳転移などの遠隔転移による症状(痛みや麻痺・ふらつきなどの自覚症状)があればそれを緩和する治療を行います。
また、胸のリンパ節転移により大静脈の血流が悪くなることで起こる、顔・首の腫れを和らげたりする目的で、放射線治療を行うことがあります。
非小細胞肺がんの病期での治療の考え方
*Ⅰ期では
・原則は手術(外科治療)を第一に考えます。
・ⅠB期では、手術と、その後に抗がん剤治療(術後化学療法)を考えます。
・手術が合併症や年齢で適切でないと判断される場合、放射線治療を検討します。
当院の放射線治療では、がんのある部位に集中的に放射線を当て、治療効果の増大をはかる定位放射線療法も選択することがあります。
*Ⅱ期では
・ 原則は手術(外科治療)を第一に考えます。
・ II期では、手術と、その後に抗がん薬治療(術後化学療法)を考えます。
(手術を行いIB〜IIIA(病理病期;手術の結果 を含めた病期)と判断された患者さんに対して術後化学療法を行うと、手術のみに比べ成績が良いと報告されています。)
・ 術後化学療法においても、2022年より術後化学療法に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の使用が導入されており、PD-L1陽性肺癌の術後化学療法として、術後化学療法テセントリク療法や、EGFR遺伝子変異陽性肺癌の術後化学療法とし、タグリッソを用いた治療が行われています。
・ 手術が合併症や年齢で適切でないと判断される場合、放射線治療を検討します。
*Ⅲ期では
・ IIIA期の非小細胞がんに対しては、手術・放射線治療・抗がん薬治療を組み合わせて治療が行われます。手術ができる場合は手術を原則に治療が行われ、その後の術後化学療法が適応されます。術後化学療法については上述のごとく、通常の抗がん薬治療の他に、2022年より術後化学療法に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の使用が導入されており、PD-L1陽性肺癌の術後化学療法として、術後化学療法テセントリク療法や、EGFR遺伝子変異陽性肺癌の術後化学療法とし、タグリッソを用いた治療が行われています。
・ IIB-IIIC期もしくはIIIA期で手術ができない場合では、放射線治療ができる場合は、放射線治療と抗がん薬治療を組み合わせた治療が第一選択となります。同治療を化学放射線療法と呼びますが、化学放射線療法後にも再発予防として免疫チェックポイント阻害薬が導入されており、免疫チェックポイント阻害薬イミフィンジで治療します。
*Ⅳ期では
Ⅳ期の非小細胞肺がんに対しては、手術や胸部への根治的放射線治療を行うことはほとんどなく、緩和療法と抗がん薬治療が治療の中心になります。
治療成績は少しずつ向上してきていますがまだ十分とはいえず、最新の抗がん薬治療でも根治することは困難です。しかしながら、近年非小細胞肺がんの治療は急速に良くなっており、がんの持つ遺伝子変異別による治療体系の確立、免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法の導入が臨床現場に広がっており、それに伴い新規の抗がん薬が増えてきております。こういった抗がん薬を駆使することにより、さらには同時並行で行われる緩和療法によって、がんの進行を遅らせ、症状を和らげ、できるだけ元気で日常生活が送れる時間をつくることを目指します。
詳細には、抗がん薬治療では、がん遺伝子の発現の有無によって分子標的治療を選択することがあります。たとえば、EGFR遺伝子変異陽性肺癌では、イレッサ、タルセバ、ジオトリフ、タグリッソといった内服薬を、ALK陽性肺癌では、アレセンサ、アルンブリグ、ローブレナという内服薬を、ROS1陽性肺癌では、ザーコリ、ロズリートレクという内服薬が治療の中心となります。これらも含めて、現在8種類の遺伝子変異に対する分子標的薬が保険償還されており使用可能となっており、遺伝子変異の種類別に特定の分子標的薬を用いていきます。また、最近では免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬:PD-1阻害剤であるオプジーボ、キートルーダ、PD-L1阻害剤であるテセントリク、イミフィンジ、CTLA阻害剤であるヤーボイ)も効果があることが証明され、初回治療から、抗がん薬と併用した免疫チェックポイント阻害薬や、免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせ、もしくは免疫チェックポイント阻害薬単剤で積極的に治療に用いております。
つまり、それぞれの肺がんの持つ遺伝子の異常や組織型によって、抗がん薬の選択肢が異なります。詳しくは、治療の担当医に遠慮無くご質問頂ければと思います。
また、がんによる症状についても緩和治療によって積極的に取り除いていくことが、治療を円滑に進め、日常生活を元気に送れるようする為にも重要になります。
当院では、緩和治療チームがあり、抗がん薬治療中も積極的な症状緩和をめざしております。
痛みの治療においては、通常の鎮痛薬で痛みがコントロールできない場合は、積極的にオピオイド(医療用麻薬:モルヒネなど)を使用しています。
*治療にあたって
治療方法は、患者さん自身が満足できる方法が一番と考えています。
まずは、病状を詳しく把握して下さい。
担当医や治療スタッフにわからないことは、何でも質問して下さい。
診断や治療法を十分に納得したうえで、治療を始めていただければと思います。
担当医以外の医師の意見(セカンドオピニオン)を聞くこともできます。
ご希望のある時は担当医に相談してみて下さい。