内科的胸腔鏡検査

検査の内容と目的

局所麻酔下胸腔鏡検査とは、胸腔内の病変(腫瘍、胸水貯留、気胸など)を有する患者さんに対して、局所麻酔化に胸壁より胸腔内に直接胸腔鏡を挿入して、病変部の確認や、生検を行い診断する検査です。
胸腔内では病変が均一に広がっているわけではないので、盲目的に行う従来の検査では診断がつかないことが多々あります。それに比べ、局所麻酔胸腔鏡検査は病変部を直視下に生検するため診断率が向上します。
検査という名前がついていますが、実際には手術の一種といえるもので、検査を行う際には胸を切開する必要がありますが、切開の範囲は1センチ程度で、手術時の負担が少なく、傷跡も残りにくいため術後の不安も最小限です。
その一方、手術が難しい面があります。切開する範囲が小さい分、どうしても手術を行う際の視野が狭くなり、出血などのリスクを負うケースも見られます。もし万一のことがあった場合には切開する範囲を広げ、胸部手術に切り替える形で対処することになります。なお、その際には全身麻酔が行われます。

検査の方法

①手術室へ入室後、止血剤を混ぜた点滴と痛み止めと気分を和らげる薬を点滴します。また感染症予防の為、抗菌薬の点滴も行います。

②患部を上にして、横向きに寝てもらい、超音波を用いて胸腔内
を観察します。同時に、胸腔鏡を挿入する部分を決定し
マーキングを行います。マーキングした部位を中心に広く消毒を
行い、清潔な覆布をかぶせ検査を開始します。

③先ほどマーキングした部位(胸腔鏡を挿入する部位)に
メスで約2㎝の皮膚切開を行い、鉗子などを用いて鈍的に胸壁に
穴をあけます。胸腔に達した後胸腔鏡を挿入し検査していきます。
この時、胸水が貯留していれば排液し、胸腔内を観察します。













④病変部位を確定し、生検を行います。診断率を上げるために複数個所から生検を複数個採取します。生検終了後は、胸腔内を生理食塩水で洗浄し、出欠の有無を確認し胸腔鏡を撤去します。

⑤最後に胸腔ドレインチューブを留置し、固定して胸部レントゲン写真でドレインチューブの位置を確認して終了です。

*検査は約1時間で終了し、入院後は1週間程度で退院することができます。

検査後の注意

 

偶発症

A)出血
出血する可能性のある部位としては、
ア)胸腔鏡を挿入する胸壁からの出血
イ)肋間動静脈からの出血
ウ)生検部位からの出血
エ)胸膜が癒着しており、癒着部位が剥がれることによる出血

などが考えられます。胸壁など直視下の出血に対しては圧迫止血、場合によっては電気メスを用いて凝固止血を行い、止血剤を含んだシートで覆うなどして止血します。内科的に止血困難な際は、当院外科の協力の下、外科的に止血を行います。出血量や止血困難の場合、輸血が必要となることも考えられます。

 B)胸膜痛
 生検、検査中に胸膜の痛みを感じることがあります。痛み止めを点滴から投与したり、局所麻酔を追加したりします。
 

 C)肋間神経痛
 術後、胸腔鏡挿入部に疼痛を伴うことがあります。検査時に胸腔鏡により肋間神経が圧迫されたことによるものと考えられますが、徐々に痛みは和らぎます。
 長い人で約半年、痛みが残ることがあります。痛みに対しては、湿布や痛み止めにて対症します。

 D)気胸注2)
 気胸が起こる原因としては、3つ考えられます。1つ目は、胸膜が癒着しており癒着部位が剥がれることにより胸膜が破れ気胸が起こることがあります。
2つ目は、胸腔内にネット状にフィブリン塊注8)が広がっており、視野を確保するために、このフィブリン塊を除去する際に気胸が発生することが予想されます。最後に、検査により、胸腔鏡の接触や、生検の際の接触によるものが考えられます。
 気胸の治療としては、通常、胸腔ドレーンを留置しますが、本検査でも検査終了時は胸腔ドレーンを留置しますので、検査そのものが気胸の治療となります。また、胸膜の穴が非常に大きい場合は、外科的に穴を閉じることも可能です。


 E)皮下気腫
 検査終了後に胸腔に貯まった空気が皮下に漏れ出てしまうことです。そのままでも改善しますが、場合によっては胸腔ドレーンを入れ替えたりします。

 F)再膨張性肺水腫
 肺水腫とは、通常、空気で満たされるはずの肺(肺胞)が、むくんで液体成分にて満たされてしまう状態です(肺が溺れてしまうイメージ)。再膨張性肺水腫とは、病気により虚脱していた肺が、再度、膨らむことにより、肺への血流が急に増えたり、リンパの流れが急に増えたりすることにより、肺水腫が起こることを言います。症状としては、呼吸困難、咳などがあり、胸部レントゲン写真で陰影が出現したりします。治療としては、軽症であれば酸素投与のみで自然に良くなりますが、中等~重症では、副腎皮質ステロイドの点滴投与などが必要になることもあります。

 G)膿胸
 検査による操作にて体外の細菌が胸腔内に入り込んで、感染し発症します。最も多い原因が、患者様自身の体表に住み着いている常在菌が胸腔鏡を挿入した穴を通じて入り込んでしまうことです。予防的に抗菌薬を投与したり、検査終了時に清潔な生理食塩水で洗浄したりします。膿胸が発症した場合は、抗菌薬に治療を追加します。

 H)胸腔鏡挿入部の癌の浸潤
 検査の結果、癌細胞が見つかった場合、胸水中に癌細胞が浮遊していることが予想されます。また、胸腔鏡を挿入した部位(胸膜)そのものに癌細胞があることも予想されます。こういった癌細胞が、非常に稀ですが、挿入部の傷口に定着してそこで癌が育つことがあります。

 I)麻酔に伴う合併症
 局所麻酔にキシロカインという注射薬を用います。キシロカインに対するアレルギー反応が出現したり、ショックを引き起こしたりすることがあります。キシロカインは胸水穿刺や胸膜生検の際、使用する麻酔と同じですので、その際に何も起こらなかったならば、安全に使用できると思われます。
 またキシロカインが過剰投与になった場合、キシロカイン中毒といった合併症が出現することがあります。症状としては血圧低下や徐脈、意識障害などあります。
 いずれも、点滴治療にて改善することが殆どです。

 J)迷走神経反射
 胸膜に人工物が触れることにより、自律神経の1つである迷走神経が、生理的に反射を起こし、脈拍が低下したり、血圧が下がったりすることがあります。
通常は、点滴にて症状が改善しますが、場合によっては、脈拍を上げる薬などを投与することがあります。
 
 以上、上記の合併症により、命にかかわる事態が発生する可能性もゼロではありません。また、この他にも、予期せぬ合併症が生ずる可能性もあります。いずれも、医学的妥当性に基づき、治療にあたらせていただきます。外科的な治療が必要な場合、全身麻酔下の手術に移行する可能性もあります。その都度、あらためてご説明させていただきます。

患者の自己決定権

*この検査の実施については、あなたに自己決定権があります。
*予定される検査を拒否した場合にも、今後の医療行為に関して不利益を受けることはありません。

セカンドオピニオンと質問の自由

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